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コグニザントジャパン ブログ

第二回: AI投資を価値に変える「3つの鍵」— コンテキスト・エージェント・ガバナンス

「良いAIモデルを導入すれば、成果は自然と出るはずだ」。

多くの企業がそう考え、投資を進めてきました。しかし実際には、同じように最新のAIモデルを導入していても、成果が出る企業と出ない企業に大きな差が生まれています。その差を分けているのは、モデルの性能ではありません。

コグニザントの調査「New Frontiers, New Friction」(2026年)では、この差の正体が明らかになっています。データ基盤——信頼性、セキュリティ、追跡可能性、アクセシビリティ、品質——の5項目のうち、少なくとも1つを「妥当以下」と評価した組織は64.5%にのぼりました。逆に、これらすべてが強固な組織は、生産性が27%高く、AI施策を中止する可能性は20%以上低いことがわかりました。特にデータの信頼性については、「改善が必要」と評価した組織の導入中止率は38.7%と、「良好」と評価した組織のほぼ2倍に達しています。

もう一つ、意外に思われるかもしれない結果があります。10項目のインフラ評価の中で最も脆弱だったのは、コンピューティング能力でした。オンプレミスのコンピューティング能力を「優秀」と評価できた組織はわずか19.9%。実に3人に1人のリーダーが、コンピューティング能力をAI導入の阻害要因と回答しています。基盤のわずかな弱点が、AI投資全体の成果を引き下げてしまうのです。実際、インフラの10項目すべてで「良好」以上の評価を得ている組織の生産性向上は平均15.6%ですが、そのうち1項目でも「妥当」に低下すると14.1%、1項目でも「改善が必要」があれば12.5%まで落ち込みます。

前回、多くの日本企業がAI投資を「試行錯誤」の域から脱却できていない実態を、WHY・WHAT・HOWという3つの組織課題として整理しました。今回のデータが示しているのは、その根本には、AIの性能そのものではなく、それを支える基盤の成熟度があるという事実です。

こうした基盤の課題に対応するために、私たちはAgentic AIを支える3つの鍵——コンテキストエンジニアリング、Enterprise Agent Network、Sustainable Governance——を用意しています。

ここから3回にわたり、私たちがAI Builderの中で最も深く掘り下げているAgentic AI領域について解説していきます。

1:コンテキストエンジニアリングとは何か — BASIS™が支える「WHY」

コンテキストエンジニアリングとは、業界特有の知識、業務プロセス、顧客理解、そして現場の暗黙知や判断基準といった、企業固有の「コンテキスト(文脈)」をAIに直接組み込むアプローチのことです。AIの性能そのものは、もはや競争優位の源泉ではありません。差がつくのは、そのAIに自社のコンテキストをどれだけ組み込めるかです。私たちは、コンテキストは入力層ではなく、スケーラブルなエージェントシステムそのものの、アーキテクチャの土台であると考えています。モデルは「どのコンテキストが重要か」を自分では判断できず、与えられたものをすべて処理してしまうからです。

私たちはこれを、BASIS™(Business-led Autonomous System Integration Services)という診断・構想フレームワークを通じて実行します。BASISが前提としている考え方は、「今のワークフローにエージェントを追加するだけでは、価値は十分に引き出せない」というものです。多くの既存業務プロセスは、そもそも人間がチケットや承認、引き継ぎをサイロ化されたシステム間で動かすことを前提に設計されており、例外処理や重複作業が入り込んでいます。エージェントが計画・実行できるようになると、最大の見返りは、ワークフローそのものを再設計すること——ステップを圧縮し、誰が何を決めるかを再定義し、判断力や説明責任が本当に重要な箇所にだけ人間のチェックポイントを置くこと——から生まれます。

BASIS™は、この再設計を6つのワークストリームで実行します。価値連鎖分析で推進要因とKPIを定義し、業務プロセス再設計でエージェント型のフローを描き、エージェント開発ライフサイクルでコンテキストを組み込んだエージェントを構築し、オペレーティングモデル変革でガバナンスと役割を再設計し、チェンジマネジメントで人材の定着を支援し、最後にエンタープライズIT・AIガバナンスで統合と継続的モニタリングを実現する——という一連の流れです。

2:エンタープライズ・エージェント・ネットワークとは何か — Neuro AI Enterprise Coreが支える「WHAT」

エンタープライズ・エージェント・ネットワークとは、AIエージェントを個別のタスクだけに使うのではなく、業務の入口から出口までを一つの流れとして設計し、複数のエージェントが連携する仕組みのことです。モデルだけではスケールできません。ERP・SaaS・カスタムシステムにまたがってシームレスに機能するインテリジェンスが必要です。

私たちはこれを、Neuro AI Enterprise Coreという統合基盤で実現しています。この基盤は3つの柱の上に成り立っています。まず、AIサービスとMCP統合の包括的なリポジトリであるサービスカタログが、再利用可能なエージェントへの迅速なアクセスを可能にします。次に、中央集権的なプロセスエージェントスタジオが、ワークフローに一貫性とガバナンスをもたらします。そして、Neuro AI Multi-Agent Acceleratorが支えるマルチエージェント・オーケストレーションが、まるで人間の管理者のように、複数のAIエージェントを指揮し、複雑な業務であっても、それぞれのエージェントが状況を判断しながら協調して自動的に業務を実行します。重要なのは、これが既存のシステム投資を破壊せずに、異種混在のプラットフォーム全体でシームレスに機能する、プラットフォーム非依存の変革であるという点です。

さらに、企業固有のデータでモデルを鍛え上げるAI Model Training and Data Servicesが、先ほど紹介したデータ基盤の弱点そのものに向き合います。データの信頼性・品質・追跡可能性を組織全体で高めていくことは、AIエージェントの精度と成果を左右する土台づくりでもあるのです。

3:サステナブル・ガバナンスとは何か — Neuro AI Trustが支える「HOW」

サステナブル・ガバナンスとは、AIが実際に稼働している最中にも、その挙動を継続的に監視し、規制・ビジネス要件に沿って統制し続ける仕組みのことです。企業がAIをモデル・エージェント・アプリケーションへと拡大するにつれ、その挙動を把握し続けることは年々複雑になります。これらのシステムは絶えず進化し、リアルタイムで相互作用しているため、静的な環境を前提に作られたガバナンスの手法では対応しきれません。

Neuro AI Trustは、AIが実際に稼働している最中に統治を適用することで、この課題に対処します。Guardian Agentsが継続的にAIの挙動を監視する制御層と、ビジネス・規制要件に沿ってリアルタイムでポリシーを執行するインテリジェンス層——この2つが連携し、NIST AIリスクマネジメントフレームワーク、EU AI法、ISO/IEC 42001といった主要な国際規格に整合した形で、信頼をAIのライフサイクルに直接組み込みます(詳細は最終回で改めて解説します)。

基盤への投資が、成果の差になる

3つの鍵はそれぞれ独立したツールではなく、BASIS™(診断・構想)→ Neuro AI Enterprise Core/AI Model Training and Data Services(構築・実装)→ Neuro AI Trust(運用・統制)という一連の流れの中で連動しています。冒頭で紹介したデータが示す通り、技術基盤が成熟し、投資領域を絞り込んでいる企業ほど高い成果を実感しています。この3つの鍵は、その基盤を実際に築いていくための、私たちの答えでもあります。

次回は、このAgentic AIを実際に動かす"人"について解説します。




この記事の投稿者

渡辺 宣彦

コグニザントジャパン株式会社
代表取締役社長

渡辺 宣彦

2025年11月付でコグニザントジャパン株式会社 代表取締役社長に就任。

エンタープライズ企業における大規模なDX推進や、戦略的なクライアントパートナーシップ構築における確かな実績を背景に、数十年にわたるリーダーシップ経験と業界の知見を活かしてコグニザントジャパンを統率。

直近では、日本マイクロソフト執行役員 常務としてエンタープライズ事業本部を統括し、それ以前は、ペガシステムズやアクセンチュアなど大手グローバルIT企業で要職を歴任。特に日本国内におけるオフショアリングやグローバルソーシングに関わる数多くの複雑な変革プロジェクトを成功に導いてきた実績を持つ。

慶應義塾大学法学部卒、 オーストラリア・ボンド大学にてグローバルリーダーシップMBA取得、 元早稲田大学創造理工学部非常勤講師



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