目次:
職務の価値と人材ピラミッドに迫る劇的な変化
4つの人材グループに応じた最適な人材戦略
O*NETデータベースに定義された職務タスクと、各職種の被影響度スコアの分析結果をもとに、一般的な人材グループを、生成AIによる影響度に応じて大きく4つのグループに分類しました。
各グループの職務の価値は、多かれ少なかれ変化します。役割や職務の価値の変化に伴い、各グループが組織の人材モデルに与える影響は異なり、スキル開発へのアプローチもグループごとに変わってきます。
これらの分類は、マクロ経済的な視点から大まかな傾向を示したものであり、現実にはより複雑な要素が絡んできます。たとえば、O*NETで定義されている職務やタスクは、必ずしも各企業の実際の職務内容と完全に一致するとは限りません。さらには、企業の文化やビジネス戦略によっては、同じ職務に対しても企業のリーダーごとにまったく異なる判断や対応がなされる可能性があります。
たとえば、カスタマーサービス業務の一部はすでに完全自動化が可能であるにもかかわらず、多くの企業はあえて自動化しない選択をしています。そのため、被影響度スコア分析ではカスタマーサービス担当者が「AIで完全自動化可能なグループ」に分類される可能性がある一方で、実際には多くの企業が彼らを「AIによって拡張されるグループ」に分類し、生成AIツールを活用しながら業務を継続させる判断を下すケースが見られます。企業によっては、カスタマーサービス担当者のスキルをまったく別の職種向けに再構築することで、「AIによって変革されるグループ」に分類するケースもあります。
とはいえ、このようなマクロ的な視点は、経営幹部が自社の各職務を評価し、各従業員グループに適した対応を検討するためのフレームワークとなります。
AIの影響をほとんど受けない職務
概要
これらの職種は、外科手術や電気・配管作業のように、長年の訓練や専門教育を必要とする専門的で高度な仕事や、清掃作業のように、あまり経験を必要としない非専門的な作業など、身体的な作業を伴う傾向が見られます。
生成AIは、これらの職種における中核的かつ価値の高い業務にはほとんど影響を与えませんが、その周辺業務には影響を及ぼす可能性が高く、業務の質の向上や処理可能な作業量の拡大につながると考えられます。
ハイライト
自動化対象領域: 単純作業または補助業務
人材タイプ: 外科医や麻酔科医から、配管工や電気技師に至るまで、身体的または高度に専門的な業務に従事する専門職
職務への影響: 最小限またはほとんどなし
人材戦略: 生成AIの基礎に関するアップスキリング
生成AIは、特に高度に専門化されたマニュアル作業にはほとんど影響を与えません。外科医であれば診療記録の記述のような価値の低い周辺業務が生成AIによって補完される可能性があります。
しかし、生成AIは職務そのものではなく、その補助業務には変化をもたらします。たとえば外科医の場合、医療診断や、よりパーソナライズされた患者とのコミュニケーション、フォローアップ対応などがその対象となります。さらに、外科医が使用するシステムが進化することで、患者情報、最適な治療アプローチ、最新の臨床研究や手技に関する情報が提供されるようになり、業務の質自体も向上していくと考えられます。つまり、膨大な医療データの中から、関連性の高い最も価値あるインサイトを得ることができるのです。
このグループにとって、生成AIの専門的なトレーニングは最優先事項ではありません。ただし、生成AIの基本的な仕組みや倫理的配慮、AIツールとの協働方法を理解することは、テクノロジーをワークフローに統合し、本来の職務を変えることなく業務効率を高めるうえで有効です。
生成AIによって業務の処理スピードが向上するため、必要な人員がわずかに減少する可能性はあります。しかし全体としては、従来の人材ピラミッドに大きな変化はなく、維持されると考えられます。この人材グループは、実務経験や知識を積み重ねながら、時間をかけて職位階層の上位へと成長していく必要があるためです。
AIによって拡張される仕事
概要
AIによって拡張されるグループでは、価値の低い業務が大幅に自動化され、仕事の進め方に大きな変化が生じます。AIは一部の価値の高いタスクも支援しますが、その職務における中核的な業務は、引き続き人間が主体となって担うことになります。
初稿の作成や要約といった作成スキルは価値が低下する一方で、意思決定、コミュニケーション、コラボレーション、課題解決といったスキルの重要性はさらに高まっていきます。
ハイライト
自動化対象領域: 多くの価値の低いタスク、さらに一部の価値の高いタスクが自動化の対象となる
人材タイプ:
- クリエイティブ職種全般(ジュニアグラフィックデザイナーからクリエイティブ責任者まで)
- 教育関連職(ティーチングアシスタントから校長まで)
- 弁護士(新人弁護士・研修弁護士から法務顧問まで)
- 経営幹部(オペレーション担当副社長からCEOまで)
職務への影響: 中程度
人材戦略: 生成AIツールの活用に関するアップスキリングと、それらを活用した新しい業務内容に関するカスタマイズトレーニングの実施
生成AIが登場した当初、その最大の特長のひとつは、マーケティングコピーや詩、ビジュアルデザインを創造できるクリエイティブな能力でした。その結果、アートディレクターやクリエイティブマネージャー、コピーライター、デザイナーといった職種は、完全に自動化されるのではないかという懸念が広がりました。
今では、そうした懸念は払拭されつつあります。その理由は、画像生成AIが、自然で現実的な作品よりも、依然として幻想的で非現実的な作品を生み出すケースが多いという点だけではありません。根本的な理由は、こうした強力なツールであっても、誰かが「何を作るか」を指示しない限り、何も生み出せないという点にあります。多くの企業が気づき始めているのは、優れたデザインを生み出すための明確な指示を与え、表現できる能力こそが大事であり、その役割を果たせるのは、まさにデザイナーやクリエイティブディレクターだということです。
このことは、他の「AIによって拡張されるグループ」の職種にも当てはまります。たとえば教師であれば、授業計画や宿題といった業務がAIによって効率化されます。弁護士の場合であれば、判例の分析や訴状の作成、控訴の準備といった業務に役立つでしょう。また、企業の経営幹部層の場合は、予算や報告書の作成・承認、事業運営の分析といった業務において生成AIを活用することが可能です。
しかし、自動化可能な業務に必要とされるスキルの価値は今後低下する一方で、自動化の対象にならない業務に関連するスキルの価値は高まっていくと考えられます。なぜなら、これらの専門職に就く人々が、人間ならではの能力を磨くための余裕を持てるようになるからです。
教師は今後、生徒との関わりや学習体験のパーソナライズにより集中できるようになります。弁護士は、訴訟、和解交渉、依頼人への助言といった業務に重きを置くようになり、そこでは複雑な問題解決力や対人スキルが重要になります。同様に、ビジネスリーダーは、戦略的イニシアチブを推進するうえで、共感力や意思決定力をより発揮することが求められるでしょう。
生成AIツールには、こうした専門職における生産性と業務の質の両方を大幅に向上させる可能性があります。これは特に、人材ピラミッドの下位層に当てはまります。経験の浅い人材でも、生成AIを活用することで、自身でスキルを習得するよりも短期間で高いスキルレベルに到達できるようになるからです。
スキルに関する最も差し迫ったの課題は、既存の業務範囲からより大きな価値を引き出すために、プロンプト作成など従業員に必要なツールやトレーニングを提供することです。
生成AIによって、多くの単純業務が自動化可能になるため、ルーティン業務に従事する人材の必要性が減るかもしれません。しかし、ジュニアレベルの従業員が実務を通じて生成AIスキルを習得したり、あらかじめスキルを備えた人材が仕事に就くようになると、人材ピラミッドの下位に位置づけられていた業務の内容そのものが変わり、ピラミッドの中位へと押し上げられていく可能性もあります。
また、こうした動きにより、判断・検証・品質評価・コラボレーション・戦略といった、より複雑な責任を担うシニア人材の必要性が高まる可能性もあります。
AIによって変革される仕事
概要
このグループは、非常に広い範囲で変化の影響を受けると考えられます。生成AIによって、多くの高価値・低価値な業務が自動化され、従業員に残されるのはいくつかの主要な業務のみとなるかもしれません。しかし、それだけではフルタイムの職を維持するには不十分となる可能性もあります。
その結果、これらの職種は大きく進化することになると考えられます。残された価値の高い業務や、生成AIの活用によって新たに生まれる業務を軸に、職務の方向性の転換や再編成が進むかもしれません。あるいは、特定のスキルを必要とする専門的で高度な役割へとシフトしていく可能性もあります。
ハイライト
自動化対象領域: 多くの高価値・低価値な職務が自動化の対象となる
人材タイプ:
- プログラマー(ジュニアレベルの開発者 〜 プログラミング責任者)
- 財務アナリスト(ジュニアアナリスト 〜 調査責任者/ポートフォリオマネージャー)
- テクニカルライター(ドキュメントスペシャリスト 〜 テクニカルディレクター)
職務への影響: 高程度
人材戦略: まったく新しい職種や役割に向けたリスキリング
生成AIは現在、これらの職種における主要な業務の多くを担うことができますが、リスキリングによって人材が新たなスキルを習得すれば、今後登場する新しいタイプの仕事は非常に価値の高いものとなるでしょう。
たとえば、コンピュータープログラマーが担っている最も価値の高い業務の多くは、コーディングを含め、生成AIによって自動化される可能性が非常に高いと考えられます。しかし、分析スキルやシステム設計に関する知識の重要性が失われることはありません。
この職種自体が消えることはありません。むしろ、コミュニケーションやコラボレーション、問題解決といった人間ならではの高価値なスキルを中心とした役割へと進化していくでしょう。たとえばコンピュータープログラマーの場合、試行を繰り返しながらスピーディーな開発を進めていくスタイルが主流となります。そのため、ビジネスユーザーと直接対話しながら、その場でソリューションを共同設計し、リアルタイムで得られる結果に基づいて柔軟に対応していく能力が求められるようになります。
プログラマーはまた、プログラミング、エンジニアリング、技術チームの間のギャップを埋め、より統合された一貫性のある開発プロセスを推進する役割も担うようになるでしょう。
人材ピラミッドへの影響は非常に大きなものとなります。たとえば、ある職務の80%が自動化された場合、企業はその職務に従事する人員をこれまでほど多く必要としなくなるかもしれません。しかし同時に、新たな職務が出現する可能性もあります。そうした職務は多くの場合、人材ピラミッドの中位に位置づけられるでしょう。
企業は、複数の職種で自動化の対象とならなかった10〜20%の業務だけを担う、高度に専門化された人材プールを構築することができます。たとえば、ソフトウェア開発者とソフトウェアテスターの業務の中で自動化の対象とならないタスクだけを担う、新たな職務が誕生するかもしれません。
また企業は、まったく新しい職種を創出するという選択を取ることもできます。たとえば財務アナリストであれば、データ分析や調査メモの作成といった自動化可能な業務に費やす時間が減ることで、今後は投資銀行と連携して新規顧客を獲得したり、レポートの説明や資産評価を行ったり、信頼できるパートナーとしての手腕を発揮できるようになるでしょう。さらに、企業の資産や製品の価値を的確に説明できるエキスパートとして、新たな職務に移行することも考えられます。
また別のケースでは、価値の高い業務や、AIの活用によって新たに生まれる業務に特化した仕事へと進化していくこともあります。たとえば、ある職務の50%が自動化された場合、従業員は残された業務に100%の力を注ぐことができ、生産性を飛躍的に高めることが可能になるでしょう。これはたとえば、プログラマーがAIツールを活用して、これまで以上に高品質なソフトウェアを開発するといったケースや、財務アナリストが情報を効率的に分析したうえで、営業部門が顧客に対して投資戦略や商品提案をわかりやすく説明できるできるよう支援するといったケースが考えられます。
AIで完全自動化可能な仕事
概要
このグループの業務の多くは、専門的なスキルや経験を必要としないため、生成AIによる自動化の影響を非常に受けやすいといえます。企業はこうした業務を段階的に廃止して完全に自動化することを選ぶかもしれません。あるいは、批判的思考力、問題解決力、意思決定力など、これらの業務に携わる従業員が持つ高い能力を評価し、既存の業務を新たな形で遂行できるようにしたり、別の職務への移行を支援したりすることも考えられます。
ハイライト
自動化対象領域: 業務のほぼ全てが自動化
人材タイプ:
- データ入力担当者(データ入力オペレーター 〜 データ入力スペシャリスト)
- 統計アシスタント(リサーチアシスタント 〜 統計技術者)
- 給与・勤怠管理担当者
- カスタマーサービス担当者
職務への影響: 破壊的
人材戦略: 新たな職務への配置転換に向けたリスキリング、または当該職務の廃止
このグループには、レポートの作成や給与処理など、従来「低スキル」とされてきた業務が多く含まれます。こうした業務は、生成AIを活用することで、より迅速かつ効率的、正確に実行できるようになります。しかし、これらの職務は生成AIによって完全に自動化することも可能である一方で、自動化することで人材ピラミッドの維持に大きな課題が生じる恐れがあります。というのも、これらの職務の多くはこれまで、企業が中堅・上級レベルの人材を登用するためのパイプラインとして機能してきたからです。
さらに、これらの職種に求められる批判的思考力、意思決定力、問題解決力といったスキルは、今後も常に価値を持ち続けます。そのため、人員を削減するという選択肢もありますが、多くの場合、より価値の高い職務へのリスキリングを進める方が現実的かつ望ましい選択肢となります。
典型的な例として、カスタマーサービス担当者を挙げてみましょう。時間の経過とともに、彼らは企業のシステムやプロセス、提供する製品・サービスについての深い組織的知識を身につけていきます。このような知識は、ビジネスアナリストやソリューションデザイナー、プロダクトアーキテクトといった職種において非常に価値の高いものです。
生成AIが日常的な応対業務を自動化することで、カスタマーサービス担当者は、より複雑な問題解決に注力できるようになります。そして最終的には、新しい形で業務を遂行したり、新たな役割によりスムーズに移行したりすることが可能になります。
カスタマーサービス職の再配置の一例として、IKEAの取り組みが挙げられます。同社は2021年以降、8,500 人のコールセンター担当者に対してリスキリングを実施し、インテリアアドバイザーとしての新たな職務に移行させました。この2年間で、チャットボットがコールセンターに寄せられる問い合わせの47%に対応しているにもかかわらず、同社は現時点で人員削減を計画していません。
自動化の可能性が高い職務に就いている人材を他部門へ再配置するのか、それとも解雇するのか? ビジネスリーダーは、明確な戦略的方針を打ち出す必要があります。企業の戦略によって答えは異なりますが、現実として、これからのビジネス環境では、従業員のほとんどが従来とは違う形で価値を提供し続ける世界を想定しなければなりません。
人材管理のための実践ガイド
1. 人材ピラミッドの健全性を管理する
エントリーレベルの従業員は、高度なスキルを必要としない業務を担うことで、現在のスキルエコシステムの基盤を支えています。しかし今、そのようなエントリーレベルの業務は、生成AIによる自動化の影響を非常に受けやすい業務となっています。
従業員が時間をかけてスキルを習得し、着実にキャリアアップしていくという流れが途絶えれば、人材構造そのものが崩れかねません。ピラミッドの下位層が担うべき低スキル業務が減少すれば、企業は新入社員に対する投資を増やさざるを得なくなります。なぜなら、これらのエントリーレベルの人材が戦力として企業に貢献できるようになるまでには時間がかかり、キャリア初期からより多くのトレーニングが必要になるためです。
こうしたエントリー層の空洞化が進めば、見習い制度や資金支援制度という形での政府の介入が必要となる可能性もありますが、これらの制度の実施には時間がかかります。
この空洞化の進行が穏やかであれば、経験者の採用コストは上昇し、企業は新入社員の育成に再び投資するようになり、市場バランスは徐々に是正される可能性があります。
いずれかの展開を待つだけでは、長期的には得策とは言えません。そうではなく、企業は、短期的にも長期的にも持続可能な人材モデルへの投資を、これまでにない規模で始める必要があります。業務全体の自動化を目指すのではなく、エントリーレベルの従業員には一部の低価値な業務を任せながら、実務経験を通じて専門知識を習得させると同時に、より複雑で自動化されにくい職務へと早期に移行できるよう、包括的なトレーニングプログラムを提供することが求められます。そして、判断力や対人コミュニケーション力といった人間ならではのスキルを磨く必要があります。
2. 人間ならではの経験と専門性を継続して強化する
私たちが分析した多くの事例において、経験豊富なプロフェッショナルが自ら価値の高い業務を行う機会が減り、生成AIが出力した内容の検証や確認といった管理業務に従事する可能性が高くなっています。しかし、たとえ自動化可能であっても、重要な価値を持つスキルセットが失われていくという、長期的に見て重大な課題をはらんでいます。
デザイナーが優れたデザインを見分けられるのは、デザイナーとしての自らの経験があるからです。同様に、プログラマーが悪いコードを見分けられるのは、長年のコーディング経験があるからです。しかし、自らが実践を通じて経験を積み、微妙な感覚を養う機会を失えば、組織全体の専門性の深さと広がりが脅かされます。スキルの低下が進めば、AIツールへの依存が強まる一方で、イノベーションや問題解決に必要な能力が弱まると考えられます。
AIへの依存が組織内で進むと、元に戻るのは難しくなる可能性もあります。AIシステムに障害が発生した場合や、期待した成果が得られなかった場合に、問題に対処できる経験豊富な人材が不足していると、組織にとって大きなリスクとなります。
企業は、従業員が価値ある専門知識を確実に習得・維持していけるようにすることで、AIによる業務効率化と、重要なヒューマンスキルの開発・維持の両立を図る必要があります。そのためには、従業員が実務に従事する機会を設けたり、継続的な学習とスキル開発プログラムを提供したりすることが求められます。また、人間とAI双方の貢献を重視する企業文化を育むことも重要です。
3. 経営幹部の交代に備える
本レポートは、主に生成AIの影響を受けやすい企業組織の中位および下位の従業員に焦点を当ててきました。しかし、その影響は最上位の幹部層にも及んでいます。
CEOのようなシニアリーダーの役職は、高度な説明責任や意思決定責任を伴うことから、自動化の影響を比較的受けにくいとされています。しかし、一部の経営活動にAIが浸透していくことで、経営層に求められるスキルや経験は根本的に変化していくと予測されます。
AIシステムは、膨大なデータを処理し、傾向を特定し、戦略的な意思決定をこれまでにないスピードと精度で行うことができるため、場合によっては人間の能力を上回る可能性があります。その結果、経営判断に必要とされてきた従来のスキルや経験の重要性が低下することも考えられます。これは経営幹部層のスリム化につながります。今後、戦略的な意思決定を行う際には、大規模な経営陣よりもAIに頼る組織が増えていくかもしれません。
OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏のように、すべての業務をAIが担い、CEOひとりだけで運営される数十億ドル規模の企業が登場する可能性を予見する人もいます。このような極端な例を考えると、後継者育成が問題になるのも納得がいきます。唯一の従業員であるCEOが体調を崩したり、何らかの理由で業務を継続できなくなった場合、企業はどうなるのでしょうか。
そこまで極端でなくても、経営層のスリム化は同様の問題を引き起こします。企業には、必要に応じてさまざまな分野にスキルと経験を臨機応変に投入できる、多様な経営幹部候補が求められます。経営層の自動化という考えはあまりに非現実的に思えるかもしれませんが、意思決定にAIシステムを活用するケースが増えれば、若手リーダーが実際の意思決定プロセスに関わる機会が減り、実務経験を積んだ経営人材の育成を妨げる可能性があります。企業は、将来の経営幹部候補として必要となる経験を、中堅幹部に着実に積ませる必要があります。
4. 目に見える成果と、目に見えない成果の両方を生み出すスキル
イノベーションを肯定する企業文化を育むためには、すぐに成果を求めるのではなく、すべての社員が生成AIを自由に試せる機会を提供することが重要です。
たとえば、誰もがAIツールを試したり、アイデアを検証したり、実践的なスキルを自由に身につけたりできるスペースを用意することが挙げられます。こうした投資は短期的なROIにはつながらないかもしれませんが、社員が実践を通じて学ぶ環境を強化します。
「失敗を恐れずにすぐに試す」という考え方を浸透させるには、経営陣の視点を短期的な利益から長期的な成長へと移す必要があります。実験が奨励される環境を整えることで、企業は将来の課題にも柔軟に対応できる人材を育成することができます。
これからの時代を支える人材
サポート強化型、AIによって拡張されるグループ、AIによって変革されるグループ、AIで完全自動化可能なグループ。これら4つの職種グループは、どの企業の人材構造にも何らかのかたちで存在しています。
これらの職種グループにどう備えるべきか? 生成AIと共に働く時代に向けて、ビジネスリーダーによるタレントマネジメントの意思決定は、かつてないほど重要になっています。個々の従業員に影響を与えるだけでなく、自社の人材モデル、そして近い将来、遠い未来の人材構造にも大きな影響を及ぼすことになるのです。
あらゆるイノベーションと同様に、生成AIも何かを生み出し、何かを消し去ります。しかし、生成AIが職種、業務、スキルにもたらす変化を慎重に見極めることで、生成AIが持つ「何かを生み出す力」と「何かを強化する力」を引き出すための最適解を導き出すことができるのです。
Ollie O’Donoghue
Senior Director, Cognizant Research
Ollie O'Donoghueは、業界アナリストおよびコンサルタントとしての10年以上の経験を活かして、コグニザント・リサーチをリードするシニア・ディレクター。主に、新しい経済や技術の動向が企業や産業に与える影響を調査することに主眼を置く。
これまでのキャリアを通じて、Cレベルの意思決定者に価値ある助言を提供。、DXイニシアティヴ、変化する経済環境、新たなビジネスモデルに対応するための最適な提案を行う一方、大手ITサービスおよびソフトウェア企業のマーケティングメッセージの改善や、Go-to-Market戦略の策定にも寄与してきました。