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新たな価値観、
新たな市場

AIの活用に積極的な消費者は、2030年までに最大55%の消費支出を牽引すると予想されています。AIを活用する新時代の顧客と、未来の市場を形成する要求、ニーズ、期待を深く理解することで、他社に先駆けたAI導入を実現することができます。

はじめに

はじめに

過去2年間、人工知能 (AI) の活用はビジネスの重要課題として注目を集めてきました。多くの企業において、その取り組みは主に社内で進められています。経営者たちは、効率向上、新たな働き方に適応した人材の育成、そしてAIの業務への統合に注力してきました。つまり、企業が直接管理できる活動に重点を置いてきたのです。こうした社内での取り組みは十分な価値をもたらしており、2024年の予測では 生産性の向上により、2032年までに米国のGDPを最大1兆ドル押し上げる可能性があるとされています。

しかし、取締役室の外では、さらに強力で、数兆ドル規模の影響をもたらすとも言われる新たな動きが勢いを増しています。それは、消費者によるAIの活用です。この消費者行動はビジネスに大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

すでに、対話型AIを利用した商品の検索や、音声アシスタントを使った注文が普及しています。消費者によるAI活用に焦点を当てた私たちの最新の調査によると、一見些細に思えるこうした行動が、近い将来、消費者の購買プロセスや顧客エンゲージメントを大きく変革すると予測されます。

この消費者主導の動きは無視できません。2030年までに、AIを使いこなす消費者が、購買活動全体の最大55%を占めると見込まれています。この大幅な増加を牽引しているのは、私たちが調査内で「AIアクセラレータ」として定義した、小さい規模ながらも急成長している消費者層です。この消費者層は、AIツールの利用に積極的なだけでなく、購買行動の未来を左右する存在でもあります。現在、アクセラレータは全消費者のわずか25%を占めているに過ぎませんが、所得や購買力の向上に伴い、ますます市場への影響力を強めていくでしょう。

同時に、消費者のAIに対する安心感は一様ではありません。また、新しい商品について学び、購入し、利用するというカスタマージャーニーの主な3つのフェーズにおいても一貫しているわけではありません。多くの消費者は、AIがもたらす利便性や時短効果を理解しつつも、依然として慎重な姿勢を崩していません。特に、「購入」をクリックするような重要な場面では、プロセスの主導権をAIに委ねることに対して抵抗感を持っているようです。

2030年までに、AIを積極的に活用する消費者が牽引する消費支出予測:

4.4兆ドル

米国

6,900億ドル

英国

5,900億ドル

ドイツ

6,700億ドル

オーストラリア

こうした消費者の多様な意識は、今後5年間で3つの異なる市場変化の波を引き起こし、2030年にはAIが購買プロセスに完全に組み込まれることになるでしょう。企業にとっては、消費者がAIで何をしたいのか(そして何をしたくないのか、または何をする気がないのか)、さらにその行動がどのように発展していくのかを深く理解することが極めて重要となります。

企業はまた、AIジャーニーの次の段階に備え、「エージェント型インターネット」について理解しておく必要があります。エージェント型インターネットは、AIツールとAIエージェントが相互に連携し、消費者に代わって消費者が信頼する商品やサービスを自律的に検索、評価、購入し、管理するエコシステムです。

エージェント型インターネットによって、消費者は自分だけのデジタル・コンシェルジュとも言える存在を手にすることができます。このコンシェルジュは、ビジネスAIエージェントと連携しながら、購買プロセス全体における複雑なタスクを調整・管理します。

この新たな現実に適応できる企業は成長を遂げるでしょう。しかし、その道のりは決して容易ではありません。企業が考慮すべきポイントとして、以下の点が挙げられます。

  • AIを利用する顧客の需要をどのように予測し、そのニーズに応えるべきか?

  • 人間の顧客と、彼らを支援するデジタルエージェントの双方とどのように関わるべきか?

  • 既存のビジネスモデルや運用モデル、技術、戦略的パートナーシップをどのように変革するべきか?

これらの問いは、BtoC企業に限らず、AIドリブンな経済において製品やサービスを提供するあらゆる企業にとっても意思決定の指針となるはずです。

私たちがオックスフォード・エコノミクスと共同で実施した調査では、4カ国8,400名以上の回答者から得たインサイトをもとに、これらの課題や動向について分析しました。さらに、広範な経済モデリングに加え、Cognizant Researchによる80名の消費者との綿密な意見交換を実施し、調査を補完しました。その結果、AIは、「学ぶ」、「購入する」、「利用する」という3つの重要なフェーズにおいてカスタマージャーニーを変革し、それぞれのフェーズには独自の課題と機会があるということが明らかになりました。

本レポートは、変革を乗り越え、AI導入の最前線に立ち、AIを活用する新たな消費者層のニーズや要望、そして障壁となり得る要因を予測するための指針を示すものです。

消費者がゲームを変える

AI肯定派と慎重派

AIが消費者行動にもたらす変化や、経済に長期的に与える影響を理解するためには、消費者がAIを利用する可能性を総合的に判断し、消費者を人口統計学的グループに分析する必要がありました。そのために、消費者によるテクノロジー採用の過去のパターン分析を行い、そこから得たインサイトをAI意識調査に反映させ、AI活用度指数を作成しました。(AI活用度指数の作成の詳細については、方法論を参照してください)。

AI活用度指数のスコアが高いほど、購買プロセスにおいてAIを活用する可能性が高くなります。一方、スコアが低いほど、商品やサービスの調査や購入時にAIを避ける傾向が強くなります。

この分析を基に、AI活用度の最も高い層と低い層を代表する、3つの主要なグループを特定しました。「アクセラレータ」、「アーリーアダプター」、「アンカー」の3グループです。4つ目のグループである「アグノスティック」は、AIに強い関心を持っておらず、目立った影響を与える可能性は低いと考えられます (図1参照)。

AI活用度に基づく4つの消費者グループ

図1 

分析の結果、各グループに統計的に最も関連性が高い人口統計学的な特徴が明らかになりました。特徴はそれぞれ独立しており、必ずしもグループ内のすべての消費者に当てはまるわけではありません。
調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

AI活用度に基づく4つの消費者グループ

図1 

分析の結果、各グループに統計的に最も関連性が高い人口統計学的な特徴が明らかになりました。特徴はそれぞれ独立しており、必ずしもグループ内のすべての消費者に当てはまるわけではありません。
調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

アクセラレータとアーリーアダプターの購買力が強くなるにつれ、両者が各業界における変革を推進していくでしょう。しかし、アンカーも企業にとって引き続き重要な消費者グループであり、維持・対応していく必要があります。

一方、本調査では、これら4つの消費者グループすべてに共通するインサイトも明らかになりました。企業がAIを活用して消費者と交流する方法を模索する上で、これらの調査結果は重要な考慮事項となります。
 

利便性が普及を促進する
すべての消費者にとって、AIを利用する最大の理由はその利便性です。調査対象者の75%が購買プロセスに対する不満を抱えており、これが時間の節約につながるAIソリューションの利用へと向かわせる要因となっています。実際、22%の消費者がAIを利用する最大の理由として時間の節約を挙げているのに対し、AIをベストな選択肢を見つけるための手段として考えている消費者はわずか12%でした。

自分でコントロールできることが重要である
利便性を求める一方で、消費者は特に最終的な購入選択や決済において、自らコントロールできることを重要視しています。注目すべき点として、75%の回答者が、自らの承認なしでAIが高額商品の再注文や決済を自動的に行うことを認めないと回答しています。

親しみが信頼を生む
調査結果は、スマートフォンやアプリなど身近なデバイスやユーザー体験にAIを組み込むことで、すべての消費者グループでAIの利用が促進されることを示しています。消費者はすでに、モバイルバンキング (52%が快適に利用) や旅行予約 (44%が快適に利用) など、モバイル端末を使った機密性やリスクが比較的高い行動に対して抵抗を感じていません。同じことがAIでも起こるかもしれません。日常的なデバイスにAIがシームレスに統合されることで、消費者がAIツールに触れる機会が増え、不信感や不安が薄れ、より一層受け入れられやすくなる可能性があります。

新たなカスタマージャーニー

AIが「学習」、「購入」、「利用」の各フェーズでたどる予測を超えた進化

消費者行動をより深く理解するため、カスタマージャーニーの各フェーズにおけるAIの利用についても分析を行いました。カスタマージャーニー (消費者がどのように商品やサービスを見つけ、購入するのか、そして購入の前と後でエンゲージメントがどのように変化するのか) とは、企業と顧客の関係の中核を成すものです。

私たちは、顧客接点を「学習」、「購入」、「利用」の3つのカテゴリーに分類しました。次に、定性データと定量データを用いて、各顧客接点における消費者のAI利用に対する満足度を0から100のスケールで評価し、満足度指数を算出しました。スコアが高いほど、AIの利用に対する満足度が高いことを示します¹。

満足度指数の結果から、購買プロセス全体における消費者のAI受容度にはばらつきがあることが明らかになりました (図2参照)。

解説:
満足度指数

満足度指数は、AIツールの利用に対する消費者の満足度を評価する総合スコアです。このスコアは、購買プロセスの3つのステージにおける消費者のAIツール利用に対する満足度を、15業界・36種の製品・サービスを対象に、調査データと詳細なインタビューを基に算出したものです。

スコアが高い = 満足度が高い

スコアが低いr = 満足度が低い

購買プロセスにおける満足度指数のスコア

消費者は、「学習」フェーズで最も快適さを感じており、次いで「利用」、そして「購入」の順となっています。

学習

この「学習」フェーズは、消費者のAIツールの利用に対する満足度が最も高い段階であり、満足度指数の平均スコアは47となっています。そのため、企業が最初に注力すべき最も重要なフェーズであると言えます。しかし、消費者グループ間のスコアには大きな差があります。アーリーアダプターとアクセラレータのスコアはそれぞれ58、50と高いのに対し、アンカーのスコアは33にとどまっています。

学習

「AIが商品やサービスの選択を手助けしてくれるのは素晴らしいと思います。なぜなら、選ぶプロセスをより速く、効率的に、そして楽しくすることができるからです」

Amrita (26歳、オーストラリア)

購入

意思決定を行う段階では、消費者が慎重になる傾向が見られます。「購入」フェーズにおける平均満足度指数はわずか27にとどまっています。アーリーアダプターでさえ、購入の実行にAIを利用することには慎重で、そのスコアは34と比較的低い数値となっています。アンカーは特に消極的で、スコアはわずか16にとどまりました。

購入

「AIが購入を手助けしてくれるという考えには抵抗があります。なぜなら、 自分が何を、いつ購入するのか,そしてどの支払い方法を選ぶのかは自分で知っておきたいからです。」

Eugene (36歳、米国)

利用

消費者のAIに対する満足度は、購入後のエンゲージメント・フェーズで再び上昇し、満足度指数は39に達しました。このスコアを押し上げたのは、アーリーアダプターで、彼らのスコアは47と高い数値を示しています。また、意外なことに、アンカーもスコアの上昇に大きく貢献しています。34というスコアが示すように、「利用」フェーズは、アンカーがAIを最も快適に活用できる段階であることがわかります。

利用

「AIが製品やサービスの価値を最大限に引き出せるようサポートしてくれるので、説明書を確認したり、オンラインでチュートリアルを探したり、 自分でマニュアルを読む必要もなく、とても快適です」

Idris (25歳、英国)

図2
調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名、および詳細な消費者インタビュー80件
出典: Cognizant Research analysis of data collected by Oxford Economics and YouGov

「学習」フェーズ

AIはすでに消費者の心をつかんでいる

この「学習」フェーズは、消費者のブランドに対する第一印象を左右する段階です。しかし同時に、従来の検索機能では膨大な選択肢が提示されるため、消費者が不満を感じやすい段階でもあります。このことから、「学習」フェーズは、AIがその真価を発揮しやすい段階であるとも言えます。AIによる検索は、検索結果をただ羅列するだけでなく、選択肢を絞り込むことができます。また、消費者の満足度が高いことを踏まえると、「学習」フェーズは企業にとって消費者の関心を引き、最適な意思決定を行うための絶好の機会となります。そのためには、消費者がこのフェーズにおいてAIに何を求め、どのようなAIツールを最も快適に利用できるのかを理解することが重要です。

従来の検索への不満が、利便性への欲求を生み出す

従来の検索に対する不満

消費者はAIによる検索結果の根拠を必ずしも信頼していない

消費者はAIによる検索結果の根拠を必ずしも信頼していない

消費者ごとに求める検索プロセスは異なる

消費者ごとに求める検索プロセスは異なる

従来の検索への不満が、利便性への欲求を生み出す

消費者がAIを利用する最大の理由は時間の節約であるため、「学習」の段階では利便性が特に重要です。膨大な情報が飛び交う市場では、消費者は自分が探しているものをできるだけ早く見つけたいと考えています。音声アシスタントに自分の嗜好に基づいた提案をさせたり、ソーシャルメディアでスクリーンショットを撮ったブランドや商品を視覚検索で特定したりなど、手段はさまざまです。

音声アシスタント、対話型AI、パーソナライズされた推奨事項、視覚検索などのAIツールは、消費者が求める迅速でスムーズな検索プロセスを実現します。こうしたツールは、消費者の満足度レベルで最も高い評価を得ています (図3参照)。この段階では、AIがアシスタントとして機能し、選択肢を絞り込み、検索プロセスを効率化する役割を果たしています。

定性調査においては、複雑な検索を簡単にできる点で対話型AIが高く評価されており、「ほとんど手間をかけずに複雑な情報を見つけ、理解できる素晴らしいツールだ」という意見が寄せられています。また、視覚検索については、検索スピードの速さが支持され、「名前がわからない特定の商品を簡単に見つけられて便利だ」といった意見が見受けられれました。

消費者はAIによる検索結果の根拠を必ずしも信頼していない

しかし、利便性を追求する一方で、アクセラレータやアーリーアダプターでさえ、プライバシーの保護、信頼性、透明性の重要性を訴えています。例えば、ダイナミックプライシングやターゲット広告は、裏で操作されているのではないかという懸念や過剰請求などへの警戒感から、満足度の評価が低い傾向にあります。ある回答者は、「自分の検索履歴がすべて蓄積され、それがターゲット広告のために利用されていると考えると恐ろしい」と述べています。また、パーソナライズされた推奨は、その的確さが評価される一方で、精度を欠いた場合にはすぐに信頼を損なう可能性があるという課題もあります。

消費者はまた、AIの真の意図に疑問を抱いています。AIは本当に自分にとって最適な選択をしているのか?それとも企業の提携先やより利益をもたらす業者を贔屓しているのではないか?すべての消費者グループに共通して、AIが必ずしも自分たちの利益のために働いているわけではない、という不信感が挙げられており、13%の消費者がこれを最大の懸念事項だと回答しています²。

学習
棒グラフ「学習」


図3 

調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

棒グラフ「学習」


調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

消費者ごとに求める検索プロセスは異なる

当然のことながら、消費者の意識はさまざまです。例えば、アンカーの3分の1 (34%) は、「学習」フェーズではAIツールを一切使用しないと答えています。このような消費者は、人との対話を好み、AIの正確さに対して不信感を抱いています。具体的には、約5人に1人 (18%) が、人との対話を重視するため、対話型AIを利用したくないと回答し、17%が、AIの検索結果は不完全または不正確である可能性があると懸念しています。

しかし意外にも、視覚検索への評価はアクセラレータとアンカーの間でほとんど差はないことがわかりました。アクセラレータとアンカーの満足度の差はわずか2ポイントにとどまっており、AIを活用しつつも従来の検索方法に似たツールは、懐疑的な消費者にも受け入れられやすい傾向があることを示唆しています。また、画像から商品を特定できるといった、わかりやすい価値を提供するツールは、AIの利用に消極的な消費者にも時間とともに受け入れられる可能性が高まることがわかります。ある消費者は、「視覚検索を使えば、キーワードを推測したり、複数のサイトをブラウズして目当ての商品を探すといった手間をかけずに、正確に欲しい商品を見つけることができる」と述べています。

ビジネスへの影響

消費者の心をつかむための新たな戦いが始まり、従来の手法は通用しなくなっています。市場から取り残されることを避けるためには、AIツールを活用し、自社の製品・サービス・体験を消費者に確実に訴求するための運用モデルを構築することが必要です。短期的には従来の検索手段の提供を続けることも求められます。

「購入」フェーズ

消費者の迷いとためらい

「購入」ボタンをクリックしたり、デジタル契約書にサインしたりする場面は、AIへの信頼性が問われる瞬間です。利便性が約束されているにもかかわらず、消費者はこの重要な意思決定の場面で足踏みし、学習から購入へと踏み出すことを心理的にためらいます。その理由は、決定権を手放すことへの抵抗感にあります。

消費者は決定権を手放すことを恐れている

消費者は決定権を手放すことを恐れている

人気のあるAIツールでさえ満足度が急落

人気のあるAIツールでさえ満足度が急落

しかし、シームレスな購買体験への関心は高い

しかし、シームレスな購買体験への関心は高い

消費者は決定権を手放すことを恐れている

消費者は、AIに決定権を渡し、購入を代行させることによる影響を不安視しています。例えば、AIが意図しない数量を注文したり、想定以上に高額な商品を選んだりすることで、修正や取り消しが難しくなるのではないかということを懸念しているのです。注文するコーヒーブランドをAIが自動的に選択することに慣れている消費者でさえ、「購入」ボタンをクリックするという一見些細な行為については、自分自身でコントロールしたいと考えています。

定性調査では、AIの誤作動や不正確さに対する不安の声が数多く寄せられました。ある回答者は、「音声アシスタントは指示を誤解することが多い。画面がないため、自分が正しく操作できたかどうか確認できない」と不満を述べています。データのセキュリティも懸念事項のひとつです。「AIに自分の情報を使わせたり、支払いを簡単にするために保存させたりすることに抵抗がある」と別の回答者は述べています。

AIの判断基準に対する不信感を抱く消費者も少なくありません。ある消費者は、「アルゴリズムは最高額入札者の指示に従うだけで、自分の利益を考えた購入をしてくれない気がする」と述べています。

人気のあるAIツールでさえ満足度が急落

AIを積極的に利用するユーザーでさえ、「購入」フェーズで意思決定権を手放すことには慎重です。「学習」フェーズと比較すると、アクセラレータの満足度指数は50から33に、アーリーアダプターの満足度指数は38から34に低下しています。具体的には、「学習」フェーズでは、アクセラレータの41%、アーリーアダプターの52%が対話型AIの利用に抵抗がないのに対し、「購入」フェーズではそれぞれ33%と46%に低下しています(図4参照)。音声アシスタントにも同様の傾向が見られます。「学習」フェーズでの満足度はアクセラレータが38%、アーリーアダプターが53%であったのに対し、「購入」フェーズではそれぞれ30%と42%に低下しています。

興味深いことに、顔認証のようなセキュリティ技術は、購入フェーズにおいて他の技術と同様に支持されています。この傾向は特にアンカーの間で顕著です。ある消費者は、これを「追加の認証と保護レイヤー」と称しています。

購入
棒グラフ「購入」


図4 

調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

棒グラフ「購入」


調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

それでも、シームレスな購買体験への関心は高い

「購入」フェーズにおけるAIの導入を促進する要因があるとすれば、それは、特に若年層の消費者に見られる傾向ですが、よりスムーズかつ効率的な体験でしょう。「購入」フェーズで対話型AIの利用を好む回答者のうち4人に1人以上が、対話型AIを利用する主な理由として、時間の節約(27%)または体験の向上(21%)を挙げています。ある消費者は次のように述べています。「対話型AIを使って製品の購入をするかどうか決めるのはとても楽しい。より複雑な内容にも対応でき、より自分に合った提案をしてくれるからです」

このような消費者の声は、複雑な質問や直前の注文変更、チェックアウト時のエラーといった障壁に対応するうえで、AIツールがいかに有効であるかを企業に対して示しています。不便さやストレスを取り除くことは、消費者がAIを活用した取引へと踏み出すうえでの重要な動機付けとなります。

ビジネスへの影響

「購入」段階において、消費者は自分自身でコントロールできることを強く求めています。AIソリューションの安全性と目的に対する信頼が高まるにつれ、こうした慎重な姿勢はこれから変化していく可能性もありますが、現時点では不信感が課題となっています。企業には、自動化と消費者に一定のコントロールを委ねることとの間で、適切なバランスを取ることが求められます。

「利用」フェーズ

AIへの満足度が上昇

「利用」フェーズでは、消費者がスマート家電やストリーミングサービスなどを通じて、製品・サービス・エクスペリエンスに組み込まれたAI機能を活用します。ここには、メンテナンス、修理・点検、再注文、機能のアップグレードといったプロセスの自動化も含まれます。このように、AIは販売後における企業と消費者の関係を深化させる上で重要な役割を果たします。

調査では、すべての消費者の「利用」フェーズにおけるAI利用に対する満足度指数が大きく上昇しており、AIに懐疑的な層である「アンカー」ですら、「学習」フェーズよりもこの段階でAIをより好意的に受け入れていることが明らかになりました。消費者は、製品やサービスとの自動的な連携によって得られる非常に高い利便性を評価しているようです。

消費者は自動化された製品やサービスに魅力を感じている

消費者は自動化された製品やサービスに魅力を感じている

ただし、自動再購入に対しては抵抗感がある

ただし、自動再購入に対しては抵抗感がある

アフターセールスにおいて、対話型AIと視覚検索は迅速かつ信頼できる手段として優れている

アフターセールスにおいて、対話型AIと視覚検索は迅速かつ信頼できる手段として優れている

消費者は自動化された製品やサービスに魅力を感じている

常に時間の節約を求める消費者にとって、製品やサービスの維持管理、再補充、アップデート、機能拡張といったプロセスをAIが自動化することは非常に魅力的です。この段階でAIが関与することで、非接触型の体験が実現されることが多くなります。現実的な例としては、よく使う食品を自動で再注文する冷蔵庫や、燃費を節約するカスタマイズ機能を搭載した自動車、エラーコードを検知してメーカーにメールを送信し、専門的な修理を依頼する家庭用暖房システムなどが挙げられます。

いずれの例においても、消費者は大幅な時間の節約とストレスの軽減を体験しています。ある消費者は次のように述べています。「AIが製品やサービスの利用をサポートしてくれるのは本当にありがたいです。節約できた時間で他のことができますからね」

消費者にとって、AIは生活を便利にしてくれる見えない存在として認識されていくでしょう。ある回答者はこう述べています。「AIって当たり前の存在なんです。特に意識するものじゃないんです」

しかし、自動再購入に対しては抵抗感がある

「利用」フェーズの満足度レベルが高まる一方で、アフターセルスにおける完全自動購入に対しての抵抗感は残っています。「購入」フェーズと同様に、自分でコントロールしたいという欲求がここでも強く、実際のニーズよりも収益向上を目的として、高価格の商品を再注文するなど、AIが必ずしもユーザーの利益を最優先にするとは限らないのではないかという懸念が見られます。ある消費者は次のように述べています。「AIが製品やサービスを自動的に再注文してくれるのは便利だと思いますが、プライバシーや購入のコントロールに不安を感じます。自分のニーズを誤って解釈して、望まない商品が届くようなことにならないでしょうか」

自動再注文や自動決済に対しする満足度が最も高いのはアクセラレータですが、その満足感も価格の上昇に伴って低下する傾向があります。たとえば、25ドル程度の低価格商品についてはアクセラレータ43%がAIによる自動再注文に抵抗がないと回答していますが、100ドルの中価格帯商品では36%、500ドルの高価格帯になると、その割合はわずか32%にとどまります。すべての消費者層を見ると、各価格帯における満足度指数は、それぞれ28%、22%、18%に低下しています。

利用
棒グラフ「利用」


図5 

調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

棒グラフ「利用」


調査対象: 米国、英国、ドイツ、オーストラリアの回答者8,451名
出典: CognizantおよびOxford Economics

アフターセールスにおいて、対話型AIと視覚検索は迅速かつ信頼できる手段として優れている

対話型AIは、「アーリーアダプター層」や「アクセラレータ層」において、引き続き最も支持されているツールですが、「アンカー層」にとっては最も支持率の低いツールのひとつとなっています(図5参照)。リアルタイムでのトラブルシューティング、製品使用時の問題に対する個別対応、製品やサービスの追加オプションのレコメンデーションなど対話型AIが提供する機能は、AIへの期待度が高い層にとって非常に魅力的であることが明らかです。ある消費者は、こうしたアフターサービスについて次のように述べています。「マニュアルを読んだり、チュートリアルをネットで探したりしなくても、製品やサービスの価値を最大限に引き出せる気がします。何かわからないことがある場合でも、順を追って確認できるので楽ですね」

もっとも、視覚検索を「利用」フェーズで活用する際の満足度については、通常は対照的な傾向を示すアンカー層とアクセラレータ層で珍しくほぼ同水準となっています。画像を送信してトラブルシューティングできるような機能は、製品の不具合の状況を言葉で説明する煩わしさを軽減するのに役立ちます。こうした機能は、アクセラレータ層が重視するスピードに加え、アンカー層の信頼やロイヤルティの構築につながる明確で信頼性の高いサポートも提供します。

ビジネスへの影響

「利用」フェーズにおける高い満足度指数は、消費者が購買後も長期的に関与したいという意欲の高さを示しています。これは、企業が顧客との関係を構築する機会であると同時に、AIツールの利用に慣れ親しむ機会でもあり、AIのさらなる活用を後押しすることにもつながります。

「利用」フェーズは、アフターサービスと自動再注文といった分野で新たな収益源を生み出す可能性もあります。しかし、これは中間業者にとっては破壊的な変化となる恐れもあります。OEMと消費者間に新たな販売チャネルが確立されれば、従来の小売業者のビジネスは影響を受けるでしょう。そして、スマート製品メーカーとのパートナーシップを持たない企業は、そうした機会を逃すリスクがあります。

市場変化の3つの潮流

今後5年以内に予測される変化

これらの動向を踏まえると、現在から2030年にかけて、市場には劇的な変化が訪れると予測されます。その変化は、3つの明確な期間に分けて捉えることができます。私たちは、今後これらの変化がどのように進んでいくかを示す時系列シナリオを策定しました。このタイムラインは、消費者層の分析、消費者層によるAI利用の可能性、さらにOxford Economicsによる購買力の分析に基づいています。さらに、AIテクノロジーやそのエコシステムがどのように、そしてどの程度のスピードで進化・成熟していくかについての独自の知見も反映しています。

時系列シナリオ

* アクセラレーター層の消費額は、米国だけでも現在の4.1兆ドルから2030年には4.4兆ドル以上に増加すると予測されています。

図6
出典: Cognizant Research with economic data provided by Oxford Economics

* アクセラレーター層の消費額は、米国だけでも現在の4.1兆ドルから2030年には4.4兆ドル以上に増加すると予測されています。

図6
出典: Cognizant Research with economic data provided by Oxford Economics

第1の波: 2025年 — 2027年

製品検索を起点に、アクセラレータ層がAI活用を加速

第1の波: 2025年 — 2027年

製品検索を起点に、アクセラレータ層がAI活用を加速

消費者は現在、製品やサービス、体験を見つける手段としてAIを利用しており、第1の波はすでに始まっているといえます。たとえば、最新の必読書をAlexaに尋ねたり、町でおすすめのレストランをChatGPTに聞いたりすることは、もはや一般的になりつつあります。この急激な変化を牽引しているのはアーリーアダプター層であり、さらにその動きを加速させているのが、より多くのアクセラレータ層です。アクセラレータ層の購買力がピークを迎えることで、アクセラレータ層の経済的影響が指数関数的に拡大していくと予測されます。

現在は、膨大な数の製品が存在し、そのバリエーションも多岐にわたることから、従来の検索手法では十分な対応が難しくなりつつあります。そのため、消費者は自分に合った情報を得るために、対話型の生成AIを活用するなど、購入サイト以外での検索にシフトしていく可能性が高いと考えられます。ある回答者は、AIを活用した検索について次のように語っています。「AIがこちらに話しかけてくれるし、変な言い回しでもちゃんと理解して、必要な情報を見つけてくれるんです」

このような急激な変化は、アクセラレータ層と巨大テック企業の間に生まれる自己補強的な動きによって、さらに加速していくと見られます。アクセラレータ層は、製品やサービスを効率的に見つけるためにAIを積極的に利用しており、大手テクノロジー企業もそうした機能を消費者向けツールに組み込んでいます。巨大テック企業が消費者のテクノロジー利用に与える影響は非常に大きく、企業がこの勢いを止めたり、方向転換したりする余地は限られています。

この第1の波の時期には、消費者が製品を見つけるプロセスが急速に変化し、企業が提供するAIエージェントとAIエージェントに選ばれるストアフロントの開発をめぐって企業間で激しい競争が展開されるでしょう。AIドリブンな消費者から信頼される存在となるためには、単にAIの検索精度を高めるだけでなく、顧客の嗜好に基づいて最適なオファーや条件を発信できる独自のエージェントを開発することが求められます。

第2の波: 2027年 — 2029年

アフターセールスが次なるAIの競争領域に

第2の波: 2027年 — 2029年

「利用」フェーズが始まり、ビジネス変革が競争条件となる

この第2の波の時期に入ると、消費者は購入後の製品やサービスとの関わりにおいて、AIの利用をさらに受け入れるようになります。たとえば、腰痛に効くストレッチを提案するAI搭載のヘルスアシスタントや、不具合が発生する前に部品の再注文やメンテナンスのスケジュール調整を行うスマート家電などが、日常的に利用されるようになるでしょう。

この時期においても、アクセラレータ層が経済変化を牽引します。そして、「利用」フェーズで最も満足度指数が高いアンカー層が、アクセラレータ層の経済的な牽引力を支えています。この高い購買力を持つアクセラレータ層と継続的な消費を続けるアンカー層の両者によって牽引される市場に参入することは、企業にとって重圧となるでしょう。

しかし、第2の波で起こる市場変化に対応するには、第1の波以上の企業努力が求められます。真の変革を実現するには、新たなビジネスモデルの構築やテクノロジー投資が不可欠です。さらに、製品・サービス・カスタマーエクスペリエンスのすべてに、AIの機能を組み込んでいく必要があります。

たとえば、車が自律的にメンテナンスサービスの予約や部品の注文を行ったり、医療機器が生体データに基づいて医療予約を手配したりするようになるには、既存の技術インフラの大規模なリエンジニアリングとモダナイゼーションが必要になります。

明るい材料としては、AIを活用したアフターセールス市場が、今後最も有望な収益機会のひとつになることです。OEMは長年の間、安定したアフターセールス収益の確保を模索しており、トラクターのソフトウェアアップデートからカーシートヒーターにいたるまで、さまざまな機能にサブスクリプション方式を採用してきました。今後は、人間とAIエージェント、そしてコネクテッドデバイス間の商取引を円滑にするために必要なデータを管理・仲介するまったく新しいタイプのビジネスも登場してくると予測されます。

この新興市場に参入するための猶予時間はある程度残されているものの、参入の機会は限られています。こうした市場の動向は、勝者独占型の競争を生み出す可能性もあり、先行企業が自社製品を軸にクローズドな経済圏を築くことで、ユーザーを囲い込み、市場を支配する展開も十分に考えられます。

第3の波: 2030年以降

AIがカスタマージャーニーに完全に組み込まれる時代へ

第3の波: 2030年以降

「購入」フェーズを含む購買プロセスが完全に変革される

第3の波では、「購入」フェーズも含め、AIドリブンな購買行動に対する抵抗感は薄れていきます。第2の波を経て、アフターセールスにおける再購入が一般化することで、購入プロセスの3つのフェーズにわたって、AIツールに対する消費者の満足感が高まっていくと考えられます。これにより、製品やサービスの入手方法および利用方法が大きく変革することになるでしょう。

2030年までに、アクセラレータ層は米国において3,000億ドル規模の消費増をもたらすと推定されており、経済を牽引する主役になります。一方、「購入」フェーズでAIの利用に強い抵抗感を示していたアンカー層は、徐々に経済的影響力を失っていく見込みです。米国だけでも、購買力のピークを過ぎたアンカー層の消費は、2030年までに3,810億ドル減少すると予測されています。

アクセラレータ層の圧倒的な影響力により、AIは今後ますます購買サイクルの自動化を推進していくと見られます。その結果、人間が自身で購入を決定する機会は減少し、AIに意思決定を委ねることを受容する傾向が高まるでしょう。

eコマースや携帯電話、ソーシャルメディアの普及など過去の事例に見られるように、テクノロジーが日常生活に深く根付くにつれて抵抗感は薄れ、多くの人に受け入れられ、信頼されるようになります。

とはいえ、業界ごとにすべての段階でさまざまな圧力に直面する可能性が高く、その結果、この第3の波の期間が長くなる可能性があれば、短くなる可能性もあります。企業は、自動購入がもはや選択肢ではなく、現代の商取引における前提条件となる状況に適応していく必要があります。

エージェント型インターネット

支援型の購入から自律型の消費体験へ

これら3つの波が広がる中で、消費者向けAIエージェントが急速に普及していくと見られます。そして、私たちがこれまで知っていたインターネットの姿は、大きく姿を変えることになるでしょう。これまでは、ウェブサイトやアプリを使った手動検索によって購買が進められていましたが、今後は、消費者が利用するインテリジェントなAIエージェントと、企業のAIエージェントとが連携し、購入プロセス全体にわたって複雑なタスクを調整・実行するという本格的なエージェント型インターネットへと移行してくと予測されます。こうしたネットワーク化されたインタラクションにより、ユーザーはこれまでのように企業と直接関わるのではなく、自分自身のAIエージェントを通じてやり取りするのが一般的になるでしょう。

これは遠い未来の話に聞こえるかもしれませんが、若年層 (アーリーアダプターやアクセラレータ層) は、すでに音声アシスタントや対話型AI、視覚検索といったAIツールに慣れ親しんでいます。エージェント型インターネットは、以前にも増して身近な存在なっていくAI機能をひとつに統合し、オンライン上での購入タスク全体を自動化するようになると予測されます。

AIエージェントがモバイルデバイスやスマート家電、ウェアラブル機器といった日常的なデバイスに広く組み込まれるようになれば、消費者の日常生活の一部として自然に定着していくでしょう。こうした身近な環境でのAI利用は、時間の経過とともにAIのさらなる普及を促進すると考えられます。  

このモデルが進化するにつれ、消費者が製品を「見つける」「比較する」「購入する」「使用する」という一連の購入プロセスは、大きく変わっていく可能性があります。たとえば、AIエージェントが消費者の嗜好を理解しはじめると、企業が自社製品を候補リストに入れてもらうこと自体が難しくなるかもしれません。エコシステムパートナーとの連携を前提とした事業モデルへの転換が求められるほか、AIエージェントに「見つけてもらう」ための新たなマーケティング手法の導入、そしてエージェント型の購買プロセスに適応したサプライチェーン運用の刷新などが必要になるでしょう。

エージェント型のインタラクションが拡大すれば、大規模な自律型エージェントを管理できるダイナミックでフレキシブルなシステムとプロセスが必要になります。また、エージェント型のパーソナライズされた取引の普及に対応するためには、柔軟な技術スタックと新しいビジネスモデルも不可欠となるでしょう。

エージェント型インターネットの未来像

ベッドの購入プロセス

ある消費者が新しいベッドを必要としています。その消費者のAIエージェントは、年齢、体重、睡眠パターン、家族・世帯情報など、詳細なデータをもとに行動します。これらのデータは、本人から直接提供されたデータに加え、オンライン上の行動履歴や生体情報モニタリングを通じて自律的に収集されたものです。

下矢印

この情報をもとに、AIエージェントは複数のサプライヤーに問い合わせを行い、消費者に適した候補を絞り込んで提示します。消費者がその中から1つを選ぶと、AIエージェントは購入手続きを完了し、企業側のロジスティクス・エージェントと連携して、消費者が普段在宅している時間に合わせて配送を手配します。

下矢印

組み立て時には、消費者が視覚検索を活用して、必要な部品がすべて揃っているかを確認し、各部品の取り付け位置を確認します。もしAIエージェントが、ベッドスラットや留め具などの部品が足りないことを検知した場合、直ちにサプライヤー側のサポートエージェントに連絡し、交換部品の手配を行います。場合によっては、消費者に代わって一部返金の交渉を行うこともあります。

エージェント型コマースの新時代が到来

図7
出典: Cognizant Research analysis

図7
出典: Cognizant Research analysis

AIがもたらす成長機会を掴むための
6つの戦略的優先事項

未来の消費者像 = インタラクション、手続き、意思決定をAIエージェントに自律的に代行してもらう人々。AIドリブンな消費者が牽引する新時代で成長を持続させるためには、戦略、テクノロジー、デザイン、アーキテクチャ、オペレーション、そして倫理という6つの重要分野において、事業運営のあり方を再考する必要があります。

先発優位性を築くために、リーダーが注視すべき推奨事項は次の通りです。

1. 戦略

「学習」で消費者の心をつかみ、「利用」で信頼を獲得し、「購入」につなげる

1. 戦略

「学習」で消費者の心をつかみ、「利用」で信頼を獲得し、「購入」につなげる

「学習」フェーズにおいては、消費者は選択肢が多すぎることへのストレスを軽減してくれるAIツールに魅力を感じる傾向があります。この重要な分岐点で消費者の関心を引くためには、新たなエンゲージメントのルールが必要になります。

たとえば、製品を調べたり見つけたりする際に、音声アシスタント、視覚検索、対話型AIといったAIツールを利用することが一般化していくと、企業は製品・サービス情報の発信においてマルチモーダルなアプローチを取る必要があります。製品説明は、音声アシスタントによる読み上げや、対話型AIとのやり取りに適した、簡潔でわかりやすい表現が求められる一方で、視覚検索に最適化された高品質な画像や動画の活用も欠かせません。

企業が「発見」フェーズで消費者の認知を獲得した後は、満足度指数が最も高い「利用」フェーズへと進みます。「利用」フェーズに移行することで、販売後も顧客との関係が継続し、製品やサービスとのAIを介した継続的なエンゲージメントを通じて、信頼を強化する機会を得ることができます。

企業はこの信頼を土台として、「購入」フェーズに進み、AIが自動購入することに対する消費者の信頼を醸成することができます。その際には、消費者が一定の操作性を確保できることも重要な要素となります。AIによる学習支援で得られたポジティブな体験を、製品の使用や購買プロセス全体にまで広げていくことで、企業はAI時代にふさわしい一貫性のあるカスタマージャーニーを構築することができるのです。

AIによる学習支援で得られたポジティブな体験を、製品の使用や購買プロセス全体にまで拡大し、一貫性のあるカスタマージャーニーを構築する。

2. テクノロジー

まずは競争の舞台に立つことが重要

2. テクノロジー

まずは競争の舞台に立つことが重要

企業にとって最も重要なAIプロジェクトは、社内にAIを導入することではなく、自社の製品・サービスがAIドリブンなプラットフォーム上で確実に認知されるようにすることかもしれません。消費者側のAIエージェントが一般化していくなかで、企業側もそれらのエージェントと連携可能なAIエージェントを備えておくことが求められます。そのためには、新しいインフラとデータ機能が必要になります。

これを実現するには、消費者向けプラットフォーム上でAIがどのように利用されているか、また、自社の製品・サービスをそうした環境にどう組み込めるかを深く理解することが不可欠です。たとえ社内で強固なAIソリューションを構築できたとしても、消費者がすでにAIを日常的に利用しているプラットフォームと連携できなければ十分とは言えません。

自社の製品・サービスをAIに認知されやすい状態にするためには、主要なAIプロバイダーと提携するべきです。そうすることで、AIが主導する情報探索のプロセスの過程で自社の製品・サービスを訴求できるほか、高付加価値な環境での可視性を確保するための機能を共同で開発することが可能になります。

この規模の統合を実現するためには、外部のAIプラットフォームと連携し、消費者側のAIエージェントとのデータ交換を可能にするAPIの開発が不可欠です。同時に、これらのエージェントやプラットフォームとのインタラクションによって増加するデータ要求に対応するため、インフラへの投資も求められます。また、AIプラットフォームごとに異なるデータ要件を理解し、それに対応したデータ戦略も構築しなければなりません。具体的には、製品データのリッチ化、新たなデータセットの生成、リアルタイムデータフィードの実装などを通じて、互換性と最適なパフォーマンスを確保する必要が生じるでしょう。

消費者がAIに購買の意思決定を委ねる傾向が強まる中、製品・サービスをより広範なAIネットワークに組み込むことによって、可視性と関連性を維持することが可能になります。

消費者が購買の判断に利用するプラットフォーム上で、自社の製品・サービスが確実に候補リストに入るよう、AIパートナーとの提携を図る。

3. デザイン

利便性と時間の価値を提供する

3. デザイン

利便性と時間の価値を提供する

消費者がAI ツールを利用する主な理由は、価格ではなく利便性です。消費者は常にコストよりも時間を優先するのかという疑問もあるかもしれませんが、この傾向は、設計において利便性を重視する企業にとって、時間に追われる消費者の心を掴む大きなチャンスでもあります。AIを介したあらゆる体験は、企業にとってだけでなく、消費者にとっても迅速かつスムーズであることが不可欠です。

高度な提案機能、即時の製品比較、迅速かつ信頼性の高い決済プロセスを可能にするAIツールは、すでに利便性とスピードを提供する最適な存在となっています。新たなエージェント型の機能が、この傾向をさらに加速させていくと予測されます。

購買プロセスにおける煩雑さを解消するAI機能やAIエージェントを統合することで、AIへの関心の有無やブランドとの接点の有無にかかわらず、時間に追われる消費者の関心を引くことが可能になります。

企業にとってだけでなく、消費者にとっても迅速かつスムーズなAI体験を設計する。

4. アーキテクチャ

消費者が今いる場所で出会う

4. アーキテクチャ

消費者が今いる場所で出会う

消費者がこれまでに、重要な手続きにおいてモバイルインターフェースを信頼するようになったのと同様に、AIもまた、使いやすく信頼性の高いデバイスやアプリ、プラットフォームを通じて受け入れられていくでしょう。これを実現するためには、ヘッドレスアーキテクチャを優先してAIを実装し、AIの機能をあらゆる環境で利用可能にした上で、スマートフォン、音声アシスタント、ノートPCなど、消費者にとって身近なデバイスや既存のプラットフォームにシームレスに統合することが求められます。これにより、消費者は自分が使い慣れたチャネルを通じてAIを利用することができ、モバイルインターネットのような多様性を体験することが可能になります。

消費者がこうした信頼できる環境でAIを利用することに慣れていくにつれ、金融取引や旅行の計画といった重要な場面におけるAIの意思決定に対する消費者の満足度も徐々に高まっていくと考えられます。

消費者は、特定の場面でAIの利用を強いられていると感じるよりも、すでに使い慣れたツールやデバイスの延長として、AIアプリケーションをより前向きに受け入れていくでしょう。

モバイルインターネットの多様性が普及した時と同じように、AI機能を消費者にとって身近なデバイスやプラットフォームで利用可能にする。

5. オペレーション

AIと人間らしさの融合

5. オペレーション

AIと人間らしさの融合

AIの利用に慣れている消費者であっても、重要な局面では人間との対話を重視する傾向があります。この傾向は特に、信頼性や責任が問われる医療や金融サービスなどの大きな決断を伴う購入において顕著です。

「一度設定したら終わり」というAI戦略では通用しません。求められる効果的なアプローチは、AIと人とのインタラクションを融合させたハイブリッド型のアプローチです。たとえば、製品情報の収集や初期問い合わせなどにはAIを組み込んだカスタマーエクスペリエンスを設計し、複雑な質問や微妙な判断が必要な場面、あるいは共感や人間的な対応が求められる場面では、スムーズに人間へと引き継ぐことが重要になります。

AIの導入にあたって人による管理と説明責任を重視することで、多様な消費者や状況に応じたカスタマーエクスペリエンスを構築することができます。

複雑な質問や微妙な判断が必要な場面、あるいは共感や人間的な対応が求められる場面では、スムーズに人間へと引き継げるハイブリッドなカスタマーエクスペリエンスを構築する。

6. 倫理

すべての消費者に対応する

6. 倫理

すべての消費者に対応する

世界の約3分の1の人々はいまだにインターネットにアクセスできません。こうした人々や、最新テクノロジーを採用することができない立場に置かれた人々にとって、AIを活用した購入やエージェント型インターネットへの移行は、ハードルが高すぎると感じられるかもしれません。

このような進化は、お気に入りの小売店やエンターテインメント体験においてさえ、消費者が疎外感を覚える要因となり得ます。しかし、さらに深刻になるのは、生活に不可欠なサービスまでもがAIを前提とした仕組みに変わっていく場合です。たとえば、AIが仲介するプラットフォームを通じて提供される行政サービスや、最新のウェアラブル端末を通じてのみ利用できる医療サービスなどは、公平なアクセスの確保を困難にします。

したがって、企業が最も重視すべきことは、先進国市場においても世界市場においても、デジタル格差のさらなる拡大を防ぐことです。

ひとつのアプローチとして、購買プロセスの重要な段階において、AIを使わない選択肢を継続して提供することが考えられます。たとえば、実店舗にインタラクティブばAIツールを導入し、特定の消費者層がAI技術に親しむ機会を提供することも可能でしょう。このような取り組みによって、将来的にAI技術の利用に関する理解や普及が進むまで、すべての消費者に対して公平なアクセスの機会を確保することができます。

購買プロセスの重要な段階において、AIを使わない選択肢を継続して提供し、すべての消費者に対して公平なアクセスを確保する。

最後に

エージェント型企業の台頭

エージェント型企業の台頭

商取引の世界は、産業革命からeコマースの登場に至るまで、常に大きな変化の連続でした。そして今、私たちはさらに新たな時代を迎えようとしています。それは、消費者が意思決定をAIツールに委ねるというエージェント型の消費を特徴とする新たなコマースの時代です。

しかし、今起きている変化は過去の変化とは異なります。これまで、商取引の構図に破壊的イノベーションをもたらしてきたのは企業でしたが、今の変化を牽引しているのは、AIの利用に積極的な一部の消費者層です。この消費者層はすでに、変革の歯車を回し始めています。確かに、購買プロセスにAI機能を組み込むのは企業ですが、実際に変化を加速させているのは、AIに対して好意的で、場合によっては自覚のないままAIを使いこなしている消費者たちなのです。

リーダーがこの変化に備えるための時間は、あとわずか5年も残されていません。

その影響は、まずは消費者向けビジネスにおいて最も顕著に現れますが、その後あらゆる業界にも現れると考えられます。たとえば、製造業界は中間業者を介さずに直接消費者とつながるべきか、それとも小売業界とより緊密なパートナーシップを構築すべきか。銀行は、エージェント同士の取引を支える決済インフラをどのように管理していくのか。運輸・物流業界は、自律型取引の拡大、より大量化・高速化・パーソナライズ化が進む複雑な配送ニーズにどう応えるのか。

もし、エージェント型企業への転換を目指すなら、ビジネスリーダーは自社のロードマップを根本から見直す必要があります。人間の消費者とAIエージェントがエンゲージメントのルールを決定する世界でどう競争力を維持していくかが問われることになるでしょう。

巻末注

¹ 満足度指数は、購買プロセスの各段階において、消費者がAIとどの程度積極的に関わろうとしているかを定量化するために、Cognizant Research によって開発された指標です。この指標は、各消費者層に最も当てはまる年代層の分析に基づいています (図1参照)。ただし、「アーリーアダプタ」層だけは、年齢ではなく新しいテクノロジーを最初に利用したいと答えた回答者に限定しています。満足度指数は、Cognizant Researchが実施した調査データおよび定性的な調査結果に基づいて算出されており、「学習」「購入」「利用」の各フェーズにおけるさまざまなAIツールの利用に対する満足度に加え、15の業界にわたる36の製品・サービス・体験についての評価結果が反映されています。

² 回答者には、AIを利用する理由または利用しない理由について、最も当てはまるものを1つだけ選択するよう依頼しました。

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リサーチ

Ollie O’Donoghue

Head of Cognizant Research

Duncan Roberts

Associate Director, Cognizant Research

Alexandria Quintana


Senior Manager, Cognizant Research

Ramona Balaratnam

Manager, Cognizant Research

Stella Maude

Analyst, Cognizant Research

編集

Catrinel Bartolomeu

Head of Thought Leadership Editorial

Mary Brandel

Editor

Lynne LaCascia

Head of Brand, Thought Leadership
& Research

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