概要
10年後に訪れると予測していた未来が、いま現実に
あらゆる職種で、AIによる変化は想定以上の広がりとスピードで進んでいます。
図表1
出典: コグニザント
図表1
出典: コグニザント
被影響度スコアとは
AIの影響を大きく受ける職種が増加
AIの影響が最も小さい職種の割合は31%から7%へ減少した一方、影響が最も大きい職種の割合は0%から30%へ増加しています。
図表2
出典: コグニザント
どの職種や職種グループでAIの影響が最も急速に拡大しているのかを把握するため、新たに変化速度スコアを算出しました。このスコアは、当初予測していた被影響度スコアの変化の推移と、今回の最新分析に基づく変化の推移との差を定量化したものです。(変化速度スコアの詳細については、解説ボックスをご覧ください。)
当初の調査における被影響度と比べて、変化速度スコアが予想以上に高かった職種には、次のようなものがあります。
- 身体的な作業を中心とする職種:これまでAIの影響を受けにくいと考えられていた、身体的な作業の比重が高い職種でも、今回の分析では、当初の調査と比べて被影響度スコアが大幅に上昇し、変化速度も予想を上回る結果となりました。
例えば建設業では、AIは設計図の読解を支援できるようになっています。運輸業では、貨物の検査や安全確認を行うことができます。また、自動車整備士や配管工がAI機能を搭載したスマートグラスを装着し、故障したエンジン部品や水漏れ箇所を特定するといったことも、もはやSFの世界の話ではありません。
- 意思決定を担う職種:管理職や監督職は、エージェント型AIの登場によって、AIの影響を受ける可能性が急速に高まっています。従来、こうした職種は高度な調整や判断を伴うため、AIによる変化の影響を受けにくいと考えられていました。しかし、エージェント型AIは分析にとどまらず、業務を実行できるようになったことで、その状況は大きく変わりつつあります。
これまで管理職は、リソース配分やプロジェクトの進捗管理、業務の優先順位付けに多くの時間を費やしてきましたが、現在では自律型エージェントがこうした業務を遂行できるようになっています。例えば、プロジェクトマネージャーは、連携する各種ツールを活用することで、エージェントに会議日程の調整、支出パターンに応じた予算の再配分、進捗状況の確認などを自律的に実行させることが可能になります。
- 医療・教育・法務などの高度な専門分野:医療、教育、法務といった高度な専門分野では、AIは単純な業務の支援にとどまらず、職務の中核を担う、より高度な業務の自動化へと急速に進化しています。
例えば、医療分野では診断精度の向上や患者ケアの支援、教育分野では学習評価や授業でのディスカッションの促進、法務分野では訴訟結果の予測分析や契約交渉の支援など、AIはさまざまな専門業務で活用されるようになっています。
わずか3年で実現した、AIの3つの大きな進化
「完全に自動化可能」と分類された業務タスクの割合
1%
2023年
10%
現在
「AIによる部分的な支援が可能」または「AIによる大部分の支援が可能」と分類された業務タスクの割合
15%
2023年
40%
現在
AIによる自動化が可能な業務タスクが増加
図表3
出典: コグニザント
こうした状況を踏まえ、被影響度スコアを更新するにあたり、私たちはAIの3つの主要な能力に着目しました。
1. マルチモーダルAI:AIに「見る力」を与える
2. 高度な推論能力:AIに「考える力」を与える
3. エージェント型AI:AIに「実行する力」を与える
3つの能力が組み合わさることで生まれる相乗効果
それぞれの能力だけでも大きな価値がありますが、3つが組み合わさることで、その効果はさらに高まります。マルチモーダルAIはより豊富な情報を取り込み、高度な推論能力はAIの判断精度を高め、エージェント型AIはAIが実際の業務を遂行する力を与えます。その結果、相互作用を通じて継続的に改善していく、自己強化型のシステムが実現します。
こうした理由から、職種の被影響度は、個々の能力の高さよりも、それらの能力が組み合わさることで何が起こるかによって左右されるようになっています。「見る」「考える」「実行する」を兼ね備えたAIは、コンテンツを生成するだけのAIに比べて、はるかに幅広い業務を支援します。これは、AIが知識を扱う業務だけでなく、計画立案や手順の組み立て、点検といった、日常的な実務へと着実に広がっていることを示しています。
例えば、2023年当時、配管工はAIによる自動化の対象になるとはほとんど考えられていませんでした。しかし現在では、マルチモーダルAIと推論能力を備えたAIエージェントが、壁のシミを検知して配管の漏れを推定し、修理計画を作成し、さらには請求書や部品リストまで作成できるようになっています。実際に配管を修理するのは人ですが、その前後に行われる点検や原因診断、関連する支援業務は、AIが担えるようになりつつあります。
推論と知覚は、状況に応じた判断が求められるさまざまな業務で融合し始めています。小売店舗の運営計画、車両整備、エネルギーインフラの保守では、いずれも視覚情報の理解と手順に沿った判断が不可欠です。こうした3つの能力の相乗効果が、思考と実行をつなぐ調整、原因分析、確認作業を可能するのです。
AIの影響を最も大きく受ける職種と、最も受けにくい職種
22の職種グループにおけるAIの影響
被影響度スコアと変化速度スコアを組み合わせることで、AIが各職種グループにどの程度、そしてどれほどの速さで影響を及ぼす可能性があるかが分かります。
図表4
出典: コグニザント
バブルの大きさは、各職種グループの就業者数を相対的に示しています。
- 経営
- ビジネスおよび金融業務
- コンピューターと数学
- 建築とエンジニアリング
- 生命・物理・社会科学
- 地域・社会サービス
- 法律
- 教育指導および図書館
- 芸術、デザイン、エンターテイメント、スポーツ、メディア
- 医療従事者および技術者
- 医療サポート
- 保安・保護サービス
- 食品調理および給仕関連
- 建物および敷地の清掃とメンテナンス
- パーソナルケアとサービス
- 販売
- 事務・管理サポート
- 農業、漁業、林業
- 建設・採掘
- 設置、メンテナンス、修理
- 生産
- 輸送・資材運搬
変化が最も速く、被影響度が最も高い職種グループ
図表5
出典: コグニザント
職種グループ
- 事業運営および金融業務
- 経営
- 事務・管理サポート
60%–68%
平均被影響度スコア
11–14
平均変化速度スコア
職種グループ
- 医療専門職
- 教育職
- 法律
- エンジニアリング・建築職
39%–49%
平均被影響度スコア
8–11
平均変化速度スコア
職種グループ
- コンピューターと数学
67%
平均被影響度スコア
9
平均変化速度スコア
職種グループ
- 事業運営および金融業務
- 経営
- 事務・管理サポート
60%–68%
平均被影響度スコア
11–14
平均変化速度スコア
職種グループ
- 医療専門職
- 教育職
- 法律
- エンジニアリング・建築職
39%–49%
平均被影響度スコア
8–11
平均変化速度スコア
職種グループ
- コンピューターと数学
67%
平均被影響度スコア
9
平均変化速度スコア
変化が緩やかで、被影響度が低い職種グループ
図表6
出典: コグニザント
職種グループ
- 建設・採掘
- 輸送・資材運搬
- 生産
12%–29%
平均被影響度スコア
3–6
平均変化速度スコア
職種グループ
- 医療サポート
29%
平均被影響度スコア
6
平均変化速度スコア
職種グループ
- 設置、メンテナンス、修理職
- 警備・保安職
- パーソナルケア
20%–29%
平均被影響度スコア
5–6
平均変化速度スコア
職種グループ
- 建設・採掘
- 輸送・資材運搬
- 生産
12%–29%
平均被影響度スコア
3–6
平均変化速度スコア
職種グループ
- 医療サポート
29%
平均被影響度スコア
6
平均変化速度スコア
職種グループ
- 設置、メンテナンス、修理職
- 警備・保安職
- パーソナルケア
20%–29%
平均被影響度スコア
5–6
平均変化速度スコア
職場に求められる変革
AIの活用を、物理的・業務的な領域へと広げる
本調査では、AIの影響がオフィス業務や知的業務を超え、身体を使った実務の領域へと広がっていることが明らかになりました。特に注目すべきなのは、人間の知覚や状況判断、迅速な意思決定に依存してきた業務においても、AIを利用できるようになり始めていることです。これらの業務は、これまで自動化が難しいと考えられてきた領域でした。
例えば、機械の過熱を見極める技術者、損傷した荷物を点検するドライバー、傷の状態を確認する看護師など、現場では小さな判断の積み重ねが業務の成果を左右します。こうした判断は、これまで形式化された手順ではなく、経験や経験から培われた直感に支えられてきました。しかし現在では、画像や音声、空間情報を理解できるマルチモーダルAIが、こうした判断を認識し、支援し、さらには学習できるようになっています。
これは、仕事そのものの捉え方が変わりつつあることを意味します。これまで単純な身体作業と考えられていた業務にも、実際にはAIが支援できる認知的な要素が数多く含まれています。一つひとつの改善は小さくても、一貫性の向上や抑制やミスの削減といった効果が組織全体に積み重なることで、大きな変革につながります。こうした改善が、すべての現場、すべてのシフトで実現すれば、その効果は飛躍的なものとなるでしょう。
その結果、デジタル業務と現場業務が融合した、より密接につながる働き方が生まれます。知的業務と身体を使った作業との境界は、次第に曖昧になっています。AIを活用して製品品質を確認する倉庫作業員、支援用ヘッドセットを活用して作業を行うフィールドエンジニア、店舗の状況を記録し分析に活用する販売スタッフなどは、その代表例です。身体を使った作業においても、人間ならではの判断をデジタル技術で支援できる可能性が広がっています。
変化に柔軟に対応できるオペレーティングモデルへ移行する
生成AIがビジネスの舞台に登場して以来、AIの技術革新はより早く、より短いサイクルで進んでいます。企業は、この予測しにくい変化のリズムに合わせて、事業計画や予算策定のサイクルを見直す必要があります。
緩やかな変革を前提とした組織では、こうした変化のスピードに対応することは難しく、実際に対応しきれないケースも生じています。硬直的な計画サイクル、長期化する予算承認プロセス、固定化された技術ロードマップでは、これほど急速な能力の変化に対応することはできません。一方、モジュール化されたシステム、柔軟なガバナンス、機動的な予算配分を備えた企業は、変化への適応力に優れています。こうした企業は、技術の進化に合わせて検証を行い、新しい技術を取り入れながら、必要に応じて迅速にリソースを再配分できます。
こうした企業は、業務運営の柔軟性を備えていると言えます。変化を前提として組織を設計しているため、新しいAIモデルの登場も、経営戦略を揺るがす危機ではなく、通常のアップデートとして受け止めることができます。また、AI機能を継続的に業務へ取り込むことが例外ではなく、標準的な取り組みとなっています。
こうした状況は、技術革新のスピードと、それに比べて緩やかな制度や教育の変化との間に、ますます大きなギャップが生じていることも浮き彫りにしています。規制の枠組み、人材育成制度、労働力計画は、依然として従来の産業構造の変化を前提としたサイクルに基づいています。今後もその役割を果たし続けるためには、組織そのものも、自らが監督するAIシステムに近いスピードで学習し、変化に対応できる適応力を備える必要があります。
人材がシステムと同じスピードで変化に適応できるよう支援する
仕事と学習は、AIの進化と同じスピードで変化し始めています。被影響度と変化速度が高まる中、人々は、日々進化するAIツールに適応しながら、自らも変化していくことが求められます。適応力は、組織にも欠かせない要件となっています。
優れた企業は、人材の適応力とシステムの適応力を同じスピードで高めていきます。そして、試行錯誤を日常業務の一部として受け入れ、人とAIツールの双方が学び合えるフィードバックの仕組みを構築しています。
従業員はAIを単に利用するだけではなく、その可能性や限界を見極めながら、自らの業務のあり方を見直し、再定義しています。一方、マネージャーには、人だけでなくAIエージェントも適切に管理し、人間の判断とAIによる自動化が対立するのではなく、相互に補完しながら進化できるよう導くことが求められます。
こうした人とAIの間の相互作用は、医療、法務、教育といった分野で特に顕著に見られます。AIは高度な分析業務の多くを担えるようになりましたが、信頼関係や共感、倫理的な判断は依然として人間に求められる重要な役割です。変化への対応が進んでいる組織は、この両者の緊張関係をイノベーションを生み出す原動力として捉えています。また、AIの活用方法を専門人材とともに設計することで、人間ならではの価値を維持しながら、AIの強みを最大限に引き出しています。
求められるスキルの急激な変化に対応したスキリングの仕組みを構築する
人材育成もまた、AIの進化と同じスピードで進めなければなりません。現在の環境では、従来型の教育サイクルでは変化のスピードに対応できません。従来の研修プログラムは、設計や承認を経て実施される頃には、その対象となるAIの能力がすでに進化している可能性があります。そのため、企業は、技術の進化に応じて必要なスキルを迅速に提供できる人材育成の仕組みを取り入れる必要があります。
新たな推論モデルやマルチモーダルAIエージェントが登場した際には、人材育成の仕組みも直ちに対応し、その技術が持つ可能性と従業員の現在の業務とのギャップを埋めなければなりません。その結果、人材育成の重点は、職種ごとの包括的な資格取得から、個々の業務タスクに応じた実践的なスキル習得へと移っていきます。
例えば、AIによる診断支援が向上したとしても、医療従事者が専門知識を一から学び直す必要はありません。必要なのは、AIエージェントが示す診断結果を適切に解釈し、その内容を患者に分かりやすく説明するための、実践的かつ迅速なスキルの習得です。こうした継続的なスキルの見直しを通じて、医療従事者は新たな技術的能力を身に付けると同時に、AIでは代替できない人間ならではの判断力や共感力を、これまで以上に高めていくことになります。
今後成功する企業は、人材育成をリアルタイムで更新し続ける基盤として捉え、技術が飛躍的に進化したときにも、従業員がその変化に遅れることなく対応できる体制を構築している企業です。
4.5兆ドル規模の労働シフトに備える
仕事の変化のスピードは、AIの進化のスピードと密接に結び付いています。しかし、その両者が常に同じペースで進むとは限りません。本調査で示した変化は、あくまでも現在のAI技術が持つ可能性を前提としたものであり、実際の結果はさまざまな要因によって左右されます。
規制や政策の動向、マネージャーに求められる説明責任、企業の経営戦略、人材の適応力などは、AI導入の方向性を左右する重要な要素です。また、経済情勢や文化的な受容性、倫理的な課題は、AIの普及を加速させることもあれば、減速させることもあります。さらに、AIや関連技術における新たな技術革新や予期せぬ停滞によっては、現在の予測を上回る、あるいは下回る規模やスピードで変化が進む可能性もあります。しかし、AIの進化が加速している現状を踏まえると、今後3年間で起こる変化は、過去3年間を上回る可能性があります。学び続けること、変化に適応すること、そして戦略的な準備を進めることに投資する企業や個人は、AIがもたらす変化に対応できるだけでなく、それを競争優位につなげることができるでしょう。
Mary Brandel
Editor