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コグニザントジャパン ブログ

保険業界の羅針盤 - 未来の働き方 - 生成AIで描くBX / DXの近未来 【第2回】

生成AIがBX/DXに与えるインパクトと、その近未来について考察する第2回目となる。1回目では普及の段階と考慮しなければいけない点について述べた。今回は企業での生成AIの実装の例を前述した三つの段階に沿って見てみよう。

普及の段階

第1回目で生成AIは以下のような三つの普及段階をたどるであろうと予想した。第1段階(2023~2026年:実験と準備)、第2段階(2026~2030年:確信を持って実装)、第3段階(2030~2034年:コラボレーションへの進化)。

現在は明らかに第1段階にあるわけだが、企業ではどのような実装がされているのであろうか。

図表1を見てみると、世界と日本についての抜粋となるが、ほとんどがある生成AIツールを導入するというような単独の導入となっているのが分かる。支援系の実装がほとんどで、顧客サービスにおける生成AIツールの導入も広義の意味ではお客さまの支援系と言うことができる。意欲的なところでは、MS&ADのように自社開発の生成AIアドインをオフィス製品に組み込んだところであろう。ただしこれも単体の実装の域を超えてはいない。

では、いまだ発展段階にある生成AI技術であるが、第2段階、第3段階と進んでいく中で現在見えている形はどういったものだろうか。

現時点では、マルチエージェントAIになるのではないか、ということである。一つの生成AIのプログラムをAIエージェントとすると、このAIエージェントがたくさんあり、それらがお互いに情報交換をしながら自らの目的、また全体としての目的を達成していく形だ(図表2)。

マルチエージェントAIのコンセプト

マルチエージェントAIの価値を十分に理解するためには、システムとその個々のコンポーネントがどのように機能するかを理解することが不可欠である。

上述したように、あるAIエージェントとは、モジュール、機能、サービス、またはデータベースをラップした生成AI LLMであり、ChatGPTのようなツールと同じように、人々が自然言語でその機能と対話することを可能にする(図表2左枠)。

マルチエージェント・アーキテクチャは拡張可能であるため、システムはユーザーの要求に対応するログを含むように進化することができる。システムは意図を理解し、自然言語で各ステップを記述することができるため、この機能はエージェントが何をしたのか、なぜそれをしたのかを記録することができる。この付加機能によりこれまで課題であったAIの透明性を確保することができ、システムとしての信頼性向上が可能となる。

また、セーフガード・エージェントと呼ばれるAIエージェントを定義し、別のAIエージェントの行動を監視させることで、エージェントの行動にセーフガードを導入することを可能にする。このエージェントはモデレーターとして機能し、ポリシーや標準に違反した場合にフラグを立て、人間に通知する。エージェントはまた、対応が起こらないようにすることもできる。

二つのエージェントを互いに交信させる場合でも、自然言語を使用しているため、透明性を維持することができる。

このような形でいつの間にか、企業のソフトウェアやアプリケーション全体が、「エージェント化」されていくことになる(図表2右枠)。

図表1
図表2

 

普及段階とマルチエージェントAI

第1段階を、POCの実施、単独AIツールの導入とすると、第2段階からいよいよ普及段階になると言える。すでに先進的な企業ではマルチエージェントAIの実装が始まっているが、現時点ではこの動きが加速することは間違いないと思われる。しかしながら、全てのアプリケーションがエージェント化の最有力候補とは限らないということも重要だ。完全に自律的なマルチエージェント・アーキテクチャのシステム目標は、理想ではあるが、ほとんどの場合、技術や社会的な考慮事項のために現実的ではない。したがって、組織はトップから出発し、組織のニーズと目標を検討し、そこから下に向かって、何をエージェント化できるかを決定すべきである。多くの企業が第2段階として組織のワークフローへの生成AIの適用を考えているが、組織におけるさまざまな役割とコミュニケーションを概説し、それらをLLMベースのエージェントでどのように補強できるかを探ることも含まれる。このアプローチと、組織の構造やプロセスを完全に見直して、完全に自律的で可能な限り効率的なものにすることは微妙に違う。戦略的なアプローチが必要となるゆえんだ。また、マルチエージェント化は現在の業務・組織の中で進んでいくという事実にも留意する必要がある。このプロセスがうまく処理されれば、組織は徐々に効率的になり、従業員はより幸せになるはずである。エージェント化の影響は、組織が現在使用しているのと同じKPIを通じて測定することができる。

第3段階ではこの動きが一層進むと予想できるが、日本では注意が必要だ。日本は世界有数の技術先進国として広く認識されている。われわれは、多様な産業や企業において確立された技術を効果的に導入する点で優れていることは疑いようがない。しかし、未成熟な技術の開発や導入に関しては保守的傾向が強く、関連するリスクを冒すことに消極的なこともまた事実である。伝統的に「ものづくり」文化を誇り、無形資産よりも有形資産の創造に重点を置いてきた。これらは、インフラ、製造、ロボット自動化における日本の強みに表れている。一方で、ソフトウェア開発やデジタル化においては、相対的に評価が低い。その結果、日本はロボット工学の分野で世界をリードする一方、AI統合などでは後れを取っている。これが、企業が生成AI技術を将来の成功に不可欠だと認識しつつも、投資計画がグローバル平均の半分未満にとどまっている理由かもしれない。当社とオックスフォード・エコノミクスの共同調査では、日本の回答者の過半数が自社の生成AI戦略が十分速く進んでいないと回答し、これらの遅延が競争上の不利を招くと考えているにもかかわらずだ。

もう一つの懸念点は人材不足である。上記調査では生成AI導入に対する阻害要因についても設問があるが、全体に対して日本の調査結果は「コスト/人材の確保」が大きく不安視されていることが分かった。既知の通りマクロ経済レベルでは、日本の人口減少と高齢化は労働市場を圧迫し続けている。この要因は、自動化技術の採用を促進するというプラス面の一方で、デジタル技術とAI技術を持った専門家の需給ギャップを拡大させている。加えて、日本は、外国人人材が日本にシームレスに同化するために克服すべき障壁が高いことで知られており、言語的・文化的な障壁を回避することは現状では困難と言える。生成AIを大規模に実装するために必要とされるような専門的なスキルセットの場合、この課題はより深刻になる。経済産業省によると、日本では2030年までに78万9,000人のソフトウェア・エンジニアが不足するという。だとすると自分が変わるしかない。自社の言語的・文化的な障壁を可能な限り下げ、オフショア人材を活用すること、そのための戦略を計画し、実行していくことが一層重要である。

革新か停滞か

OpenAIのCEOサム・アルトマンは最近、エージェント化は「生成AIのキラーコンテンツ」になる可能性が高いと述べている。

技術リーダーたちがこのコンセプトの探求を加速させようと躍起になっていることは注目に値する。IT分野のコンサルティングを行うガートナー社は、ITサービスに対する世界のビジネス支出が1兆5200億ドルに達することを明らかにした。世界的なIT技術者不足の現状を考えると、AI導入の拡大はコンサルティング・サービスへの支出の急増につながっており、同社は、企業が初めて内部リソースよりも外部リソースに多くを割り当てたことを明らかにしている。これは、企業がAI導入を拡大し、最大限の利益を確保するために必要なあらゆることを行っていることを示唆している。一方で、日本では上述したように投資計画はグローバル平均の半分だ。この事実を鑑みると、戦略を決定すべき経営陣の責任は重いと言える。



この記事の投稿者

三沢忠直

コグニザントジャパン株式会社
保険クライアントパートナー

コグニザントジャパン株式会社保険クライアントパートナー 三沢忠直

保険クライアントパートナーとして、コグニザントジャパンの保険業界を担当。



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