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コグニザントジャパン ブログ

保険業界の羅針盤 - 未来の働き方 - 生成AIで描くBX / DXの近未来 【第3回】

生成AIがBX/DXに与えるインパクトと、その近未来について考察する第3回目となる。1回目では普及の段階と考慮しなければいけない点を、2回目では企業内システムに実装する大まかな考え方を解説した。今回は生成AIテクノロジーが十分に進むと想定される第3段階の2030年に向けて考慮しなければならないもう一つの視点を紹介する。

きたるべき近未来

2030年のある秋の朝、スマートフォンのパーソナルAIアシスタント(以下PAIAと略)が話しかけてくる。

「おはようございます。よく眠れましたか?」「あなたの保険ポートフォリオを見直したところ、いくつか最新情報がありました」―。

あなたは詳細説明を指示する。

「現在、A保険会社でご契約の火災保険が、来月更新の期限を迎えますね。しかし、より良い補償を提供し、あなたの環境に対する価値観により近い新しい保険を見つけました。B保険会社は、SDGsを意識して投資を行っており、包括的な住宅保険と自動車保険を専門としています」

あなたは続きを促す。

「現在の保険はあと1カ月半で更新時期を迎えます。しかし、今すぐB社に切り替えれば、保険料が現在の保険より低いだけではなく、自然災害に対する補償が強化されており、また、サイバーセキュリティ向けの特約もあるため、この地域にお住まいで、在宅勤務が増加していることを考えるとお勧めです」

どうだろうか?この2030年のビジョンは未来的なものに思えるかもしれないが、AIによる保険革命の基盤は今日すでに築かれている。重要なのは、この変化が近づいているということだ。保険会社が直面しているのは、適応するかどうかではなく、この新しい時代に適切な存在であり続けるために、どれだけ迅速に適応できるかということである。

上記のシナリオには重要な二つの示唆がある。一つは、保険会社が対する顧客は、もはや契約者本人ではなく、そのPAIAかもしれないということ。もう一つは、PAIAがアクセスできる場所になるべくPAIAから見て理解しやすい情報を掲示しなければ、そもそも選択肢として提示してもらえないかもしれない、ということである。

保険会社への影響

PAIAが進化するにつれ、従来は保険会社や代理店の役割だったことをPAIAが担うようになっていくであろう。例えば、リスク評価と適切な保険商品の提案などがこれにあたる。この傾向は保険会社にとって重大な影響を及ぼす可能性がある。AIがリスク評価の精度を向上させるにつれ、従来の営業職員が持っているスキルは競争優位性として機能しにくくなるかもしれない。営業職員が持っているリスク評価に関する独自の専門知識は、長年その価値提案の基盤となってきたものの、市場で差別化要因として機能しなくなる可能性がある。

競争力を維持するため、保険会社は新たな差別化策を模索する必要が出てくるであろう。これには、優れた顧客サービスを提供すること、革新的な商品開発を行うこと、または単なるリスク移転を超えた付加価値サービスを提供することが含まれる。重点はリスク評価からリスク予防と管理へと移り、保険会社はAIを活用して、リスクが発生する前に顧客がリスクを軽減できるよう支援する能動的なサービスを提供することが期待されるであろう。

「透明性」が最も重要な要素となり得る。PAIAがほとんどの保険会社の商品を瞬時に比較できるようになるため、価格や補償内容の不明確さは即座に明らかになり、不利に働くであろう。保険会社にはシンプルな商品や約款と透明性の高い価格モデルを採用することが求められる。この透明性はAIアルゴリズム自体にも及ぶため、顧客(およびそのPAIA)は保険料の計算方法や特定の補償決定の理由に関する説明を要求するようになるだろう。複雑な特約やその補償内容は特に注意が必要になると思われる。

「顧客体験」は、根本から変革され、人間同士のタッチポイントは稀になり、PAIAがほとんどのやり取りを処理するようになるであろう。この接点は極めて重要となり、保険会社は最も重要なタイミングで高付加価値で顧客の共感を得られ得る商品を含んだサービスの情報を提供することが求められる。これにより、業界は二極化が進むかもしれない。一部の保険会社は完全自動化で低コストの保険商品に注力する一方、他の保険会社は複雑な保険ニーズに対応するため、プレミアムで人間中心のサービスで差別化を図ることもあるであろう。

同じく「顧客ジャーニー」は、根本から簡素化される可能性が高い。PAIAを通したやりとりは保険会社と顧客の関係を超えたより広範なサービスプロバイダーのエコシステムを包含するようになるであろう。また、このAI主導の未来において、伝統的な広告やマーケティング戦略は、保険購入における主要な意思決定者としてPAIAが台頭するにつれ、次第に効果を失っていくであろう。保険会社は、マーケティング予算の相当部分をPAIAのニーズに対応する取り組みや、自社AIソリューションの開発に再配分することができるようになるであろう。顧客のPAIAと効果的にコミュニケーションできる高度なAIシステムの開発に焦点を当てることで、保険会社は自社のサービスが自動化された意思決定プロセスで正確に反映され、考慮されることを確保できる。興味深いことに、この変化により旧来のマーケティングチャネルの一部が復活する可能性もある。PAIAがデジタルマーケティングのほとんどの取り組みを時代遅れにする中、保険会社は、依然として人間の注意を直接引き付ける看板、テレビ広告、その他のマスメディアへの回帰に価値を見出すかもしれない。その目標は、顧客がPAIAによって生成された推奨事項を検討する際に、顧客に影響を与えるブランド認知度と好みを確立することになるであろう。

「規制」は、業界の動向を形作る上で重要な役割を果たすことになる。現在の規制枠組みは、AIを介した取引を想定していない。主要な考慮事項には、AIの透明性と説明責任、データプライバシーとセキュリティ、アルゴリズムの公平性、顧客保護、およびAIガバナンスなどであろう。

規制当局は、保険会社にAIの意思決定プロセスを明確に説明することを求める可能性がある。特に、保険料設定や保険金支払いに関する意思決定において、堅固なデータ保護措置を講じながら、同時に透明性を確保することが求められるであろう。これらの変化は、保険会社にとって機会と課題の両方を提示している。この変革を受け入れる保険会社は、価格以外の要因で競争できるようになる。

このAI主導の未来において、保険そのものの概念が進化する可能性がある。損失発生への対応から、リスクを積極的に軽減し、被保険者の生活の質を向上させるための継続的なサービスへと保険モデルが変化するかもしれない。この取引型から関係型への保険モデルの転換は、保険会社が顧客の生活における自らの役割を再定義し、この継続的な関与を支える新たなビジネスモデルを開発する必要を生じさせる。問題は、この変革が起きるかどうかではなく、保険会社がどう対応するかと言える―適応できない企業は、AIアシスタントが意思決定を促す市場で存在価値を失うリスクに直面するであろう。

AIがサポートする顧客への準備

保険会社は、2030年の保険業界で成功するために、今から準備を始めなければならない。以下は当社が考える必要不可欠な施策となる。

  1. ビジネス課題を受け入れる―PAIAの台頭は単なる技術的課題ではなく、戦略的対応を必要とする根本的なビジネス課題である。例えば、保険比較サイトなどのいわゆる保険アグリゲーターは、必要とされるだろうか?保険のバリュー・チェーンを再定義するチャンスかもしれない。
  2. 新しい顧客を理解する―保険会社は、顧客がPAIAとどのように接し、その接し方がどのように保険の意思決定を形成するのかを深く理解する必要がある。そのためには、PAIAの能力や普及率、ユーザーの行動や嗜好を継続的にウォッチする必要がある。
  3. コミュニケーション戦略を適応させる―PAIAは、顧客が保険商品に関する情報にアクセスするための新たなチャネルになる。保険会社は、顧客とPAIAに効果的にアプローチするために、コミュニケーション戦略を再定義する必要がある。これにはPAIAのためのAPIインタフェースを開発し、製品情報がAIシステムによって容易に解析できるように構造化されていることなどが含まれる。
  4. 商品戦略の調整―保険会社は、PAIAが行うであろう動的リスク評価を踏まえ、商品ラインアップの見直しを検討する必要があるかもしれない。リアルタイムデータや顧客の行動に基づいて柔軟に調整可能な保険商品の開発や、AIの機能を活用する新たな商品カテゴリー、例えば予測メンテナンス保険や行動ベースの保険商品などが検討対象だろう。
  5. AI能力の開発―この新しい環境で成功するためには、保険会社は強力なAIの競争力を獲得しなければならない。これには、AI関連の開発や買収だけでなく、組織全体でのイノベーションとデータ主導の意思決定を行う文化を醸成することも含まれる。
  6. 規制の変更に備える―保険業界においてAIが重要性を増すにつれ、規制当局は公平性、透明性、消費者保護を確保するための新たなルールを導入する可能性が高い。保険会社は規制当局と積極的に関わり、こうした新たな枠組みの形成に協力すべきである。
  7. 顧客との関係を再定義する―AIが介在する未来では、保険会社は顧客との関係構築と維持の方法を再考しなければならない。そのためには、新たなタッチポイントを開発する必要があるかもしれない。例えば、パートナー・エコシステムの活用、付加価値サービスの創造、あるいはほとんど自動化されたAI同士の相互作用に人間的要素を含める方法の発見などである。

これらの重要な分野に取り組むことで、保険会社はAIがけん引する保険の未来で成功を収めることができるであろう。今、果断に行動する保険会社は、将来の保険業界の変革をリードする最良の立場に立つことができるだろう。

この新時代における成功には、技術革新と戦略的ビジョン、変化する顧客ニーズの深い理解を組み合わせた総合的なアプローチが必要となる。

保険の未来はAI主導であり、その未来は急速に近づいている。2030年以降に繁栄する保険会社は、今日から準備を始める保険会社であろう。



この記事の投稿者

三沢忠直

コグニザントジャパン株式会社
保険クライアントパートナー

コグニザントジャパン株式会社保険クライアントパートナー 三沢忠直

保険クライアントパートナーとして、コグニザントジャパンの保険業界を担当。



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