すべての人に利益をもたらす持続可能な方法でAIを導入するためには、リーダーは地域文化のニーズ、規範、技術成熟度を考慮する必要があります。
AIのグローバル展開に必要な「地域」の視点
よく人に話すのですが、私の仕事は世界でも最高だと思います。オーストラリア、ニュージーランド、中国、ASEAN諸国、日本、インドといった互いに異なる環境と美しさを持った国々を旅する中で、それぞれの国と文化の豊かさや多様性を体験できるのです。
見落とされがちなのは、テクノロジーに対する考え方が地域によって大きく異なることです。
AI、特に生成AIの進歩について考えるとき、単一文化の視点にとらわれがちです。まるで誰もが生成AIを使用、あるいは使用するための準備をしているかのように思えるかもしれません。特にテクノロジー業界に身を置く私たちにとって、実装、リスク、そして利益だけが差し迫った問題かのように感じられます。
しかし、このように考えることは危険かもしれません。AIドリブンな未来に向けて突き進む前に、導入は地域社会にどのような利益をもたらすのか、あるいは損害をもたらすのか、リーダーは一度立ち止まって考えてみてください。(この地図は、一部正確ではないものの、生成AIに対する国ごとの関心度の違いを示しています。)
文化の違いを考慮しなければ、AIイニシアティブは失敗に終わるかもしれません。また、市民が企業やその他の機関に寄せる信頼も損なわれかねません。対照的に、思慮深く導入を進めれば、地域社会や産業界も違いを許容するでしょう。結局のところ、最適な成果を達成するために産業、テクノロジー、人類をどのように調和させるかということが最も重要なのです。
AI成熟度
アジア太平洋・日本地域で、AI導入のスタート地点や考え方は大きく異なっています。主な違いを見ていきましょう。
- 導入のペースが速いのは、技術成熟度が高い市場や業界です。例えば日本は、テクノロジーの導入に積極的で、テクノロジー分野が成長していることで知られています。高齢化とそれに伴う労働人口の不足により、日本ではAIが必要不可欠なものになっています。ある経営幹部が私に話したように、「私たちは漫画化された自分の姿を見たり、バーチャル世界で生活することに慣れている。AIと私たちは仲間として共に進化していくだろう」。
必要性に迫られているにせよ、コスト削減のプレッシャーを受けているにせよ、こうした市場(またはある一分野)では、迅速な導入が進められています。導入ペースが速い企業は、AI採用を裏付けるビジネスケースを作成し、リスクと利益を幅広く評価するための規律を定めることで利益を得ています。 - 実験に消極的なのは、テクノロジーソリューションやインフラが成熟しているにもかかわらず、AIの導入を躊躇している市場や業界です。こうした市場・業界では、倫理、信頼、プライバシー、セキュリティに対する懸念から、AIに対する懐疑的な見方が強まっています。
私が住むオーストラリアがこのカテゴリーに属します。多くのリーダーが生成AIの基礎を学んでいます。最近、オーストラリアではあるサイバー攻撃が世間の注目を集めました。この事件により、消費者の信頼は損なわれ、経営幹部層はビジネスリスクとエクスポージャー管理について真剣に考えるようになりました。
導入ペースが速い市場と比較した場合、こうしたリスクに対する不安やAIに関する一般的な懸念が、導入を遅らせる原因となっています。このカテゴリーに分類される国では、ビジネスケースは重要です。しかし、しっかりとしたリスク評価を伴う必要があります。
- 急速な発展を見せる開発途上国では、技術成熟度が著しく高まっています。その筆頭に上がるのはインドです。ここ数十年のテクノロジー導入により、農村部の農耕経済からテクノロジーとソーシャルメディアが牽引する経済へと移行した中国を見れば、インドの状況をよく理解できると思います。私は20代の頃、自転車がごった返し、ベルの音が鳴り響く中国を旅したことがあります。その時からの中国の発展には驚かされるばかりです。AIを導入したインドの今の発展は、当時の中国よりも勢いがあるといえるかもしれません。
結果として生じる社会的影響を予測することは困難です。インドは労働集約型経済で、高いスキルを持つエンジニアを輩出することにかけては非常に長けています。しかし、エンジニアではない人々、つまり自分たちの仕事が自動化された人々はどうなるのでしょうか?インドのような急速な発展を遂げる国は、何を成し遂げて、何を避けたいのかを見極めた上で、最適な導入を行い、規制上の決定を下す必要があります。
- 技術成熟度が高まりつつある新興国も大きなカテゴリーです。これらの国はクラウドコンピューティングの大規模な利用を始めたばかりで、AIに必要なデータへのアクセスは初期段階にあります。このカテゴリーに分類される国々は、将来の進歩を支える技術基盤とスキル両方への投資に重点を置きながら、制約の中でどのように前進し、競争優位性を高めていくかを考える必要があります。
働き場所や技術拠点が少ない新興国では、若い世代がこうした拠点に移動すると考えられます。そうなると、家族構成も、農村地域の構造も変わります。新しい住民のニーズに対応するため、都市部では新たな建設が必要になり、やがて中産階級が台頭し、彼らのニーズに応える企業も現れるでしょう。企業や政府は、このような要素をすべて慎重に考慮しなければなりません。
AIを導入する上で、持続可能なテクノロジーもまた、地域的・国家的な課題です。インフラは、AIに必要とされる並外れた処理能力とデータ要件に合わせて拡張しなければいけません。持続可能性と地域社会への全体的な利益(または不利益)というレンズを通してインフラの整備を検討しなければならず、これは新興国にとって極めて重要な課題です。
大局的見地から全体像を捉える
生成AIを世界的に当たり前のこととみなすのではなく、その国の特徴、伝統、インフラストラクチャに応じて、さまざまな可能性を考慮すべきです。
皮肉でもあり良いニュースでもありますが、まさに議論の的となっているAI自身が、こうした課題を解決できるほどまで進化を遂げています。AI導入によるすべての影響を把握するために必要なデータや変数を、AI自身が計算することができるのです。リーダーはこれまでにない膨大なデータを使うことで、焦ることなく、生産性、持続可能性、交通、人口動態などを考慮した計画を立てることができます。
リーダーとして、私たちはこのような環境下でどのような指導やアドバイスを与えるべきか考える必要があります。最初のステップは、一般的なテクノロジー導入と同様、AIの導入は世界中で決して同じではないことを認識することです。各政府や企業は、技術の進歩、経済的繁栄、信頼、責任、社会的影響などを考慮した見解を打ち出すべきだと思います。
詳細は、生成AIについてのウェブサイトをご覧いただくか、世界経済フォーラムのウェブページをご覧ください。
この記事は英語の原文を翻訳したものです。
原文はこちら:
『Think locally when planning globally with AI』
This article was written by Jane Livesey, Head of Cognizant Asia Pacific and Japan.
Jane Livesey is the Head of Asia Pacific and Japan (APJ), representing Cognizant’s commercial and delivery interests in Australia, New Zealand, ASEAN, Greater China, India and Japan. In this role, Jane is focused on providing enterprises and governments across the region with high-quality, market-leading digital transformation capabilities.