生成AIが切り開く小売業の新時代

生成AIは、コマース、マーケティング、カスタマーサービスの3つの側面から、ショッピングの在り方を再定義します。

今後1～2年で、生成AIがショッピング体験を根本的に変えることは間違いありません。SKUをふるいにかけるのではなく、顧客に対して対話型の1対1のパーソナライズされた体験を提供することが必要になるでしょう。

生成AIが小売業にもたらす影響の大きさは計り知れません。私たちは、この革新的なテクノロジーが直接影響をもたらす3つの分野を特定しました。つまり、コマース、マーケティング、カスタマーサービスです。この記事では、未来の小売革命で成功を収めるために、企業が取るべき対応策をご紹介します。

1. コマース: 対話型、キュレーション型

生成AIによって、顧客が数多くのSKUから必要とする商品を見つけることができるよう支援する構造化されたコマースから、"対話型 “にシフトしていくことが予想されます。AIチャットボットやメッセージアプリ、その他の自動化されたテクノロジーを利用することで、小売業者やブランドは、顧客とのより自然でダイレクトなコミュニケーションを図ることが可能になります。

オンライン小売業者である「The Man Company」の事例を紹介します。同社はWhatsApp を介してAIチャットボットを導入し、顧客が入力したプロンプトに基づいておすすめ商品をパーソナライズするレコメンド機能を提供しました。その結果、マーケティングキャンペーンやショッピング体験に修正を加えることなく、6ヶ月でコンバージョン率を3倍に伸ばすことに成功しました。

近い将来、顧客ジャーニーは、ナビゲーションメニューや店舗一覧を見ることから始まるのではなく、商品を提案してくれるデジタルツールに自分の欲しいものを伝えることから始まるようになるでしょう。

食材宅配サービスの「インスタカート」は最近、ChatGPTを使ってアプリ上で顧客に最適な商品を提案する「Ask Instacart」の提供を開始しました。顧客は、「20分で作れるヘルシーなパスタ料理は何か」といった自由形式の質問を投げかけることができ、レシピだけでなく、必要な材料すべてのリストも入手することができます。

別の例として、ペットフードの購入客が利用するAI検索ツールとプロンプトを挙げてみましょう。顧客は、ペットの品種、サイズ、アレルギー、価格、在庫状況、出荷場所に基づいて、数多くのSKUの中から関連性の高い商品だけに絞り込むことができます。製品リストや成分リストをマニュアルで収集、検討、比較する必要はありません。

生成AIによるキュレーション型ショッピング

生成AIのもう一つの利点は、既存の検索エンジンにはないニュアンスや文脈を理解できることです。例えば、従来のショッピング体験では、顧客は小売店の検索機能やナビゲーションメニューを使って水着のオプションを表示させます。関連する商品がすべて表示され、買い物客は価格、色、サイズ、スタイル、その他の属性で商品を絞り込むことができます。これは、商品の一覧が表示され、買い物客は提示されたものに対して行動できるという意味で、集約されたショッピング体験と言えます。

生成AIを使用すれば、ショッピング体験はよりキュレーションされたものになります。例えば、「ハワイでサーフィンを楽しむために袖のあるワンピース水着を探している」といったような、特定のニーズを理解することができます。また、他の既存の顧客データや過去の購入履歴も加味すれば、さらに結果を絞り込むことができるでしょう。

現在の検索から得られたインサイトは未来のショッピング体験に適用され、ニュアンスを汲んだ新しい検索結果が表示されるようにかもしれません。つまり、たとえ同じ買い物客が翌シーズンに再びサイトを訪れたとしても、袖のある水着という過去の検索は、嗜好性に基づいていたのではなく、特定のニーズに基づいていたことを検索ツールは理解するのです。

小売業者やブランドは、生成AIを活用して新しいショッピング体験を実現することもできます。例えば、Googleは最近、H&M、Anthropologie、Everlane、Loftが提供する一部の女性用トップスのバーチャル試着機能を米国で発表しました。同社は生成AIを使って、さまざま実在モデルに商品（サイズはXXSから4XLまで）をバーチャルに表示し、その服が自分と似た体格や身長の人にどう見えるかを視覚化できるようにしています。

2. マーケティング: 真のOne to Oneキャンペーン

生成AIを使えば、Eメールやソーシャルメディアへの投稿をほぼ瞬時に作成することができます。現在すべての業界において最も一般的な生成AIの使用例と言えるでしょう。

しかし、小売業者にとって生成AIの価値は、コンテンツを生成することだけにはとどまりません。小売業者は生成AIと顧客データと組み合わせることで、極めて関連性の高いパーソナライズされたインタラクションを生み出すことができます。生成AIは、画像、商品説明、広告コピー、ソーシャルメディア・コンテンツ、その他のテキストやクリエイティブ資産を受信者に合わせて生成することで、真のOne to Oneキャンペーンを可能にします。

コカ・コーラは、OpenAIのDALL-EとChatGPTテクノロジーを "業務運営を改善する "ために使用することに合意しました。マーケティングキャンペーンのパーソナライズが重要施策になるのではないでしょうか。（顧客データに基づいて）どの製品を宣伝すべきかを決定し、その製品周辺の画像や背景を素早く生成し、カスタマイズされたコールトゥアクションを生成するために、ハイパー・パーソナライズされたソーシャルメディア投稿やデジタル広告を展開していくかもしれません。例えば、長年ダイエットコークを愛飲している人に、仕事帰りのラッシュアワーに備えて缶やペットボトルを持参するよう促すデジタル広告の配信などが挙げられます。

ChatGPTは、商品説明やレビューにも利用され始めています。Amazonは最近、商品レビューの分析と要約に生成AIを実験的に利用していると発表しました。その目的は、買い物客がレビューを読み、各商品の「長所と短所」を調べる時間を減らすことです。

3. サービス: サポート体験の拡大と強化

カスタマーサービスにおける生成AIの典型的な使用例としては、サービスエージェント向けのアシスタンスツールと店舗従業員向けのセールスイネーブルメントツールの開発を挙げることができます。

いずれの場合でも、生成AIはサービス担当者が使用している既存のツールセットを強化することができます。例えば、AIツールを使用すれば、関連する顧客データをすべて呼び出して、次善のアクションを特定し、製品のレコメンデーション機能を提供することが可能です。

生成AIを使用することで、サービスのプロフェッショナルはより迅速で正確なサービスを提供できるようになります。また、買い物客の満足度やロイヤリティが高まり、仕事のやりがいも向上し、離職率が下がる可能性もあります。また、実際のサービス現場でよく直面する状況のシナリオを作成することで、トレーニング体験を強化することもできます。

生成AIはまた、接客中に顧客の声のトーンを分析して対応を調整するといった新しい機能も提供します。例えば、長時間待たされた顧客がフラストレーションを感じているとAIツールが認識した場合、問題が解決されるか、より多くの情報が入手可能になった時点で顧客対応を始めるようサービス担当者に促すことができるでしょう。

セルフサービスにおいても、生成AIの活躍を期待できます。例えば、顧客が家電量販店に過去に購入した商品の具体的な型番を尋ねたり、取扱説明書のダウンロードを要求したり、保証状況を確認したりするかもしれません。その時には、AIサービスツールが、代わりとなる類似製品や、修理の選択肢を推奨することができるのです。

企業全体への影響

生成AIの導入は、小売企業全体に波及効果をもたらします。データの保存方法から物理的なスペースの活用方法まで、あらゆることを見直す機会となるでしょう。

小売企業やブランドは、生成AIを特定の場面で利用するための戦略だけではなく、ビジネス、従業員、カスタマーエクスペリエンスへの広範な影響を考慮した、包括的でつながりのある戦略を入念に準備する必要があります。

考慮すべき戦略要素:

• データ過負荷。パーソナライズされたキャンペーン（あるいはアシスタンスツール）は、小売業者のシステムや人材では管理しきれない大量のデータを生成します。ブランドや小売業者は、AIツールをデータ戦略に取り入れ、強固なデータセキュリティ、プライバシー、ガバナンスを維持する必要があります。また、データを実行可能で価値のあるインサイトへと変換するための方法を、トレーニングを通じて従業員に伝える必要があります。
• 店舗の役割の変化。生成AIの活用は、デジタルチャネルへのシフトをさらに加速させます。より広範な小売体験において店舗の役割はさらに変化していくと考えられます。小売企業は、消費者の購入パターンや嗜好に基づいて、貴重な物理的資産をどのように活用すべきかを検討する必要があります。
  
  企業によっては、従来の店舗と倉庫、集積所、交換・返品センター、ショールームといったハイブリッドな機能を持った店舗への改修・改装を検討するケースもあるかもしれません。
• 急速な変化スピード。生成AIの急速な普及は、驚異的なスピードで変化を引き起こし、小売業者に新たな課題をもたらすでしょう。小売企業の多くは、まだ高度なデータ機能を構築し、デジタルイニシアティブを計画している過程にあります。今後数年間は、買い物客の期待に応えるだけでなく、事業の収益性も確保できるようなプログラムを開発し、立ち上げるための重要な期間となるでしょう。
• 消費者の反発。生成AIの活用は、まだ非常に実験的な取り組みです。例えば、生成AIを使って、実際の人間を撮影する代わりに、さまざまなサイズのバーチャルモデルで商品画像を作成することができますが、これは一部のブランドにとっては問題とされています。ブランドは新しい使用方法を実験することができ、またそうすべきですが、消費者の視点に立って新しい機能を検討し、データプライバシー、セキュリティ基準、そして社会規範をしっかり認知・遵守しなくてはなりません。小売業者とブランドには、顧客の感情を分析し、快適なカスタマーエクスペリエンスを提供することが求められています。

未来の小売革命をリードする

生成AIの登場と急速な進歩により、小売業界は大きな革命の時を迎えています。生成AIを活用して、カスタマーエクスペリエンスのパーソナライズ・合理化・強化に今すぐ着手するべきです。

同時に、生成AIを使う方法や場所に注意しなければなりません。生成AIは人間との対話に取って代わるものではなく、より迅速なサービス、新しい機能、パーソナライズされた体験を通して人間とのつながりを深めるものです。

世界中で生成AIの研究と実験が進む中、小売業者が生成AIを人間の目で監視し、顧客のニーズに焦点を当てることは極めて重要です。買い物客に快適なカスタマーエクスペリエンスと価値を提供することを目指し、生成AIの力を最大限に活用できる企業が、小売革命の真の勝者となります。つまり、小売革命の最前線に立つためには、買い物客に共感してもらうことが極めて重要なのです。

コグニザントの生成AIの専門家についての詳細は、ウェブサイトの小売セクションあるいは『Georgia Tech’s School of Industrial Designとの産学協同について』をご覧いただくか、こちらまでお問い合わせください。

この記事は英語の原文を翻訳したものです。

原文はこちら:
『How generative AI will spur a new retail era』

This article was written by Emily Fridman, Head of Design and Innovation, in Cognizant’s Customer Experience practice.