製薬企業は、医療従事者とのやりとりを指標、細分化、高精度なコンテンツに焦点を当てデジタルで再現。リアルタイムデータに基づくオムニチャネル・エンゲージメントモデルを導入
製薬企業のオムニチャネル・コマーシャルモデルをプロトタイプ化する方法
製薬企業と医療従事者(HCP)は、これまで主に、オフィス訪問を通じて直接顔を合わせて交流を図ってきました。しかし最近、このモデルはあまり効果的ではないということが明らかになりました。営業担当やメディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)から成る多数の優秀なMRでさえ、HCP市場の60〜70%にしかリーチできておらず、変革が急がれています。
そのため、製薬業界はデジタル・マーケティング・チャネルを急速に推進していますが、この傾向はパンデミックによってさらに強まっています。ロックダウンの影響で直接訪問ができなくなったため、ライフサイエンス企業が医療従事者とコミュニケーションを図るための唯一の確実な手段は、eメール、ウェブサイトからの資料提供、ウェビナーだけとなりました。このデジタルシフトは、デジタルマーケティングの知識を持ったハイブリッドMRが活躍するGo-to-Marketモデルの原動力にもなっています。一部の企業は、特定の健康状態、製品、市場を100%デジタルでケアしています。
こうした業界全体の変革の中で、企業はパーソナライゼーションの難しさに気づき始めています。従来のMR主導のエンゲージメントモデルは本質的にパーソナライズされていましたが、デジタルアプローチで「ふれあい」を維持するためには、すべてのチャネルでコミュニケーションを調整し、データに基づいてカスタマイズされたコンテンツを提供する必要があります。少数のイノベーターは、チャネルやコンテンツの好みなど、長期にわたって医療従事者から得たインサイトを利用することで、ハイブリッド型のコマーシャルモデルを立ち上げ、その規模を拡大してきました。
こうしたイノベーターは、以下のような価値を実現しています。
- 処方者の増加と処方者一人当たりのTRx/NRx(新規処方/処方合計)の増加により、売上が5~15%増加。
- 市場投入までの時間短縮とコスト削減により、マーケティング効率が10~40%向上。
- NPS(ネット・プロモーター・スコア)で測定された医療従事者満足度の向上
製薬企業は、このような取り組みを始めることで大きな機会を得ることができますが、複雑な問題に直面することになります。私たちは、最先端企業と協働してきた経験から、洗練されたマーケティング戦術(顧客の細分化など)と高度なテクノロジー(自動化、AIなど)を組み合わせて初めて上記に挙げた価値を実現できるということを学びました。成功につながる最良の道は、実用可能な最小限の製品(MVP)を開発し、そこから規模を拡大して、より幅広くビジネス価値を高めていくことです。
オムニチャネルMVPで大事なこと
MVPの開発は、製品ポートフォリオ(各ブランドの成長曲線と相対的パフォーマンス)を完全に理解し、ビジネス目標を設定するためにブランドリーダーと提携することから始まります。成長を実現するためには、どのような測定可能な目標が必要になるのでしょうか?より多くの医療従事者にリーチすること、例えば、新製品の認知度を高めることや、各ブランドの市場戦略とこれまでの効果も分析するべきです。また、当初の成長目標をさらに改善するために、ブランドのターゲティングモデル、メッセージング、積極的に関与すべきチャネル、データの可用性、プロモーションへの対応なども深く分析するべきでしょう。
この初期段階では、データドリブンなオムニチャネル・アプローチにより、どのブランドが収益面で最適かを特定できるはずです。それと同様に重要なのは、どのブランドや市場が最も変化を受け入れ、新しいモデルの実験に意欲的であるかを明確にすることです。
MVPに携わるブランドやローカル市場からの同意が得られたら、グローバルおよびローカルリーダーのコアチームを設立し、パイロット版を実行します。そして、外部の戦略パートナーやソフトウェアベンダーと連携し、コンサルティング、チェンジマネジメント、アナリティクス、テクノロジーに関する専門知識や人材を活用します。
MVP 自体が注視すべき三つの要素は以下の通りです。
1. 価値指標
従来の製薬会社の評価指標は、医療従事者との面会回数に基づいており、MRが訪問した回数、プロバイダが処方した回数、特定の医薬品を受け取る患者の割合などを対象としていました。そのため、製薬会社は、医療従事者の注目をどれだけ集めたか、市場カバー率と到達率、メッセージの頻度を重要視するようになりました。
オムニチャネル・マーケティング・モデルを展開する上では、顧客満足度、顧客満足度向上のきっかけとなる体験、および顧客との有意義な関係構築の成功をそれぞれまったく異なる方法で測定する必要があります。このより包括的なアプローチは、開封率やクリック率、ウェブサイト訪問数、ページ滞在時間、ディスプレイ広告の閲覧数といった枠を超えたものです。新しい指標の目的は、カスタマージャーニーを理解し、医療従事者をカスタマージャーニーに取り込むことで、どのような効果があるのかを測ることです。
2. 顧客の細分化を可能にするデータとインサイト
MVPは、データの処理や顧客の細分化を行い、さらには、顧客とのインタラクションについてインテリジェントな提案を行うことができなければなりません。そのためには、内部トランザクション・システムや外部データソースに格納されているファーストパーティー、セカンドパーティー、およびサードパーティのデータを処理する必要があります。データウェアハウスは、処方箋の販売、請求、販促活動など、報告目的の従来のデータを保存・分析するのに役立ってきました。このような従来のデータセットを、EMR、臨床検査報告書、非構造化ソーシャルデータ、KOL(キー・オピニオン・リーダー)のネットワーク効果などの新しいデータセットとリンクさせるには、量、スピード、コスト、処理のしやすさを管理する最新のクラウド・データプラットフォームが必要になります。
しかし、医療従事者の優先順位付けを行い、チャネルミックスを最適化し、医療従事者が担当する特定の患者集団を考慮したメッセージングを提案するためには、これらのデータセットに機械学習(ML)アルゴリズムを適用し、CDP、CRM、その他のマーケティング・オートメーション・システムと統合することが重要になります。
3. アジャイルな自律型コンテンツ生成システム
統合性を欠き、時間と手間を要するコンテンツ作成プロセスから脱し、より統合された自動化システムへ移行してはいかがでしょうか。こうしたインテリジェントなシステムは、標準化されたテンプレートと統合されたコンテンツ制作・配信ハブを使用して、あらかじめ承認されモジュール化されたコンテンツを使うことになります。コンテンツのA/Bテストとリアルタイムでの最適化により、医療従事者の属性に基づくコンテンツのパーソナライゼーションを推進することが可能になります。
このプロセスにおいて、企業はAI/MLを活用して、デジタル資産管理システム内でコンテンツを自動的に構築・タグ付けし、コンテンツが持つ意味に応じてシステムに保存することができます。最適に利用するためには、コンテンツを、キー・オピニオン・リーダーのビデオや重要なメッセージのスニペットといったサブコンポーネントとして開発・保存する必要があります。そうすれば、サブコンポーネントを医療・法律・規制(MLR)に準拠したテンプレート内にまとめ、電子メールやウェブページのようなチャネル固有のコンテンツを自動生成することができるのです。
このような自動化により、通常数カ月とされるMLR承認期間を1週間未満に短縮することができます。例えば、ある顧客企業が利用するAIベースのコンテンツ統合エンジンは、自然言語処理(NLP)により、MLRレビュー前にコピー素材を検出・事前確認することで、MLRのコピーレビュー作業にかかる時間を半減することに成功しています。
新たな進出先とブランドを取り込むための大規模な展開
MVP開発期間は、市場の複雑さや変更管理の必要性に応じて、4か月から8か月になります。しかし、どのMVPであっても最終的な目的は同じです。つまり、財務上およびビジネス上の具体的なメリットと、それが顧客と従業員双方のエクスペリエンスにどのように影響するかについての知見を提供するということです。
開発したMVPから得たブランドのリーダーシップとローカル市場におけるリーダーシップを活かし、新しいエンゲージモデルを提唱してみてはいかがでしょうか。そして、MVPから得た学びを、他のブランドや市場に参入するための戦略書として形にしてみてはいかがでしょうか。
MVP開発の後には、明確な目標と指標、役割と責任、ガバナンスの構造、スコープ、タイムラインを盛り込んだより大規模な変革プランが必要になります。
進出先の国が増えれば、顧客と営業チームの価値と経験を共有するために、管理計画とコミュニケーション計画を策定することが鍵となります。何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか、そしてその原因はどこにあったのか?透明性を確保することで、長期的な成功、採用、信頼に向けた変革アジェンダを継続的に計画・改善することができます。
オムニチャネルMVPを展開することは難しく複雑です。しかし、おそらく逆説的ですが、医療従事者との個人的なやりとりを継続するためには、AIのように急速に進化を続けるテクノロジーを採用した、より収益性の高い新しいハイブリッド・エンゲージメントモデルへと変革を広げていくことが重要と言えるでしょう。オムニチャネルMVPの展開は、そのための大事な足がかりになるのではないでしょうか。
この記事は英語の原文を翻訳したものです。
原文はこちら:
『How pharma companies can prototype an omnichannel commercial model』
This article was written by Vyom Bhuta, Global Head of Commercial Innovation in Cognizant’s Life Sciences practice.
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