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コグニザントジャパン ブログ

保険業界の羅針盤 - 未来の働き方 - オープン・インシュアランスの現在地と展望

金融・保険業界の次世代の潮流の一つである、いわゆるオープン・ファイナンスでくくられる金融業界向けのオープン・バンキング、保険業界向けのオープン・インシュアランスは世界的に大きな潮流となりつつある。今回はこの分野で何が起こっているのかを理解し、将来の展望を考察してみたい。

オープン・ファイナンス/オープン・バンキングとは

そもそもは2000年代初頭のオープン・イノベーションに端を発し、そのコンセプトがさまざまな形で試行錯誤されながら、より具体化かつ実質的な利益を生む形で銀行業界向けに特化したものがオープン・バンキングといえる。つまり、より幅広く対象をとるオープン・ファイナンスありきでオープン・バンキングというコンセプトが生まれたのではなく、オープン・バンキンングのコンセプトが先に出てきて、後からオープン・ファイナンスへと拡張されて今に至る。

オープン・バンキングを今につながる一連の流れとしていち早く具体化したのはイギリスで、2016年に非内閣構成省庁(純独立行政機関)である競争・市場庁(CMA)が、フィンテックのスタートアップ企業のために大手銀行のデータへアクセスするルールを定めたのが始まりである。同時にOpen Banking Limitedが設立され、CMAとともにオープン・バンキングのためのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)標準の策定や認定、導入を行い現在に至っている。特筆すべきは、オープン・バンキングのためのロードマップが定義され、その利用や準備を広く共有・促進していることである。その進捗もコロナ禍の影響があったとはいえ、ほぼロードマップ通りに進んでいる印象だ。

現在のオープン・ファイナンスは、実質的にAPIを使用して、第三者が金融・保険に関するサービスやアプリケーションを構築できるようにすることと同義と考えてよい。

イギリスでは官が主導してルール作りを行ってきたが、アメリカや日本では民が主導して推進している。

日本で利用できる具体的なサービスとしては、いわゆる金融データプラットフォームであり、マネーツリーやマネーフォワードなどがある。これらは複数の金融機関にアクセスして個々人が自身の金融資産の状況をワンストップで確認できるため便利ではあるが、APIが共通ではないため、顧客の手間が多く発展途上のサービスと言える。

オープン・インシュアランスとは

オープン・インシュアランスはこの考え方を保険会社、保険商品に適用したものを指すが、そのコンセプトを振り返れば保険業界のみに特化したものではなく、金融・保険商品全般をターゲットとし、保険色の強いものといえるであろう。 この分野でもイギリスが先行しており、オープン・バンキンングとオープン・インシュアランスの中間に位置付けられるPensions Dashboards Programme(年金ダッシュボード)もイギリスの純独立行政機関であるMoney and Pensions Service(MaPS)によって主導されている(年金ダッシュボードに関しては、第一生命年金通信No.2020―43第13号「英国における年金ダッシュボードの検討状況」に詳述されている)。

年金ダッシュボードは個々人の年金が一体いくらもらえるようになるのかを一覧するためのサービスだ。 図表はそのプロトタイプ画面と情報の種類を付記したものである。

日本とは年金の立て付けが異なるが、①は公的年金であり、日本で言えばいわゆる1階2階部分を指しており、②は企業年金、③は個人年金を表示している。一番上の「年金受給予測額」で月額あるいは年額を見ることができる。現在の日本では、「ねんきん定期便」で公的年金部分を見ることはできるが、個人加入のものも含めて一覧性を持ったものは存在しない。

②の企業年金部分に複数の項目があるが、これは確定給付企業年金(DB)の表示であり、転職ごとに増えていくイメージだ。一方で企業型確定拠出年金(DC)は、個人加入の年金商品とともに③の個人年金部分に表示されるようだ。これはポータビリティが確保されているためと考えられる。③の項目が多いのは、個人加入の年金金融・保険商品があるためで、個々人により②と③の項目数は異なってくる。

保険業界の羅針盤―未来の働き方―

 

オープン・インシュアランスへの展望

前述したようにイギリスでは、年金ダッシュボードの実現に向けた動きも加速され、オープン・インシュアランスに向けても大きな進展があったと言える。米国もまたイギリスの状況を注視しており、消費者金融保護局が最近いくつかのイニシアチブを開始するなど、この分野の動きは加速している。 消費者側のメリットは明確だが、それでは保険会社にとってのメリットはどのように考えられるであろうか。

▽新たなパートナーシップの可能性

オープン・ファイナンスの主要な目的は、金融サービスの民主化と言い換えることもできる。このコンセプトを保険業界に適用すれば、インシュアテックなどの市場参入障壁を取り除き、価格の透明性を高め、顧客の購買行動を誘導することで、競争力を大幅に改善することができるかもしれない。オープン・インシュアランスでは、データが共有されるため、純粋に取引データに基づく迅速なパートナーシップの機会が生まれる。

従来、保険会社は多額の広告投資を通じて顧客を獲得してきた。しかし、このような顧客獲得には多大なコストがかかるという欠点があった。一方でインシュアテックは顧客獲得において異なる角度から取り組んでおり、ブランディングを重視せず、スピードと顧客体験の向上に重点を置いている。そのため、商品イノベーションにより集中することができる。私たちは、既存保険会社とインシュアテックが協力することで顧客により多くの価値を提供できると信じている。

▽付加価値の提供

これまでは顧客データが会社ごとに収集され、共有できなかったため、保険会社は保障のギャップに関するカスタマイズされたアドバイスのような、付加価値サービスを提供することができなかった。

オープン・インシュアランスでは、保険会社はデータ供給者、データ消費者の二つの顔を持つこととなる。これまでなかったデータを活用し、よりパーソナライズされた商品を提案したり、未知の保障ギャップを積極的に理解し、対処したりするなどの付加価値サービスを提供することができる。

▽顧客を全方位から理解する

今日、ほとんどの保険会社は、顧客のライフステージ全体のごく一部にしかサービスを提供していないため、ニーズを特定し、それに応える機会が本質的に限られている。これは、プロダクト・ジャーニーにおけるタッチポイントの数が限られていることが一因である。保険会社とのやり取りは、年に1回あるか保険金請求を通じて偶発的に行われるかのどちらかである。

オープン・インシュアランスはこの状況を変え、適切な分析ツールやテクノロジーを使えば、隠れている情報も読み取ることができるようになるであろう。より多くのデータを活用することで、保険会社はより良い、よりパーソナライズされたサービスを提供したり、顧客体験を向上させ、より満足度を上げることができるようになると思われる。

おわりに

オープン・ファイナンスの進捗によって、消費者の利便性が向上し、保険会社のパートナーシップ等の機会が増加することは明らかだ。一方で多くの保険会社はデジタル社会での消費者のライフステージにおける商品とサービス提供の位置付け/再定義が不十分なように思われる。保険を一連の商品としてではなく、より広範なデジタル・エコシステムの一部として捉え直す必要があるのではないだろうか。オープン・インシュアランスは、そのコンセプトを実現するために必要な推進力を提供するだろう。

【三沢忠直氏のプロフィル】

コグニザントジャパンの金融・保険事業の一環として、お客さまのIT戦略、導入、運用保守、トランスフォーメーションを支援。少子高齢化によるIT人材不足が顕在化する日本市場において、国内外をシームレスに利用する次世代のITフレームワークを推進。コグニザント入社以前は30年以上にわたり、製造、流通、アパレル、金融サービスなど幅広い業界を経験。また、日本のハイテク製造業でCIOとして日本本社ERPシステム刷新、SAPグローバルロールアウトを成功させる。



この記事の投稿者

三沢忠直

コグニザントジャパン株式会社
金融・保険クライアントパートナー

コグニザントジャパン株式会社保険クライアントパートナー 三沢忠直

金融・保険クライアントパートナーとして、コグニザントジャパンの金融・保険業界を担当。



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