AIは日本企業に飛躍のチャンスをもたらす
――今の日本市場をどう評価していますか?かつての 「イノベーション大国」 としての輝きを取り戻すことは可能でしょうか?
私が若い頃、日本はイノベーションとエクセレンスの代名詞でした。ソニーやトヨタのようなブランドが世界にその名を轟かせていました。しかし、時代とともに世界の状況は変化し、機敏性、適応力、そしてコスト競争力を駆使した新しい企業が市場に参入してきました。
とはいえ、このAI時代においても、日本企業は依然として大きなチャンスを秘めていると考えています。例えば、バイオ医薬品分野では強力な世界的プレーヤーが台頭しており、日本企業の将来にとって明るい兆しにも見えます。こうしたグローバル市場で存在感を表す日本企業の特徴としてAIの導入に非常に意欲的で、それが強い競争力を支えています。
もちろん、高齢化や労働力不足といった課題は依然として残っています。しかし、日本社会はレジリエンス、適応力、そしてイノベーションにおいて優れた実績を誇っています。まさにこの領域でこそ、AI、特にエージェント型AIが、人間の潜在能力を解き放ち大きな変革をもたらす力となりえるのです。
エージェント型AIによる革命的な変化
―― エージェント型AIという言葉が注目を集めていますが、ジェネレーティブAI(生成AI)とはどう違うのでしょうか?
ジェネレーティブAIは世界中の人々の想像力を掻き立てていますが、今、私たちはより高度な段階へ、すなわちエージェント型AIの時代へと突入しようとしています。エージェント型AIは、ジェネレーティブAIを活用した新たなフロンティアであり、人間とAIエージェントが融合し、より高度なビジネス成果を生み出す新たな可能性を秘めています。人間が指示を出し、AIエージェントが自律的に判断し、行動を起こし、タスクを完遂する。この新しいモデルがビジネスプロセスを根本から変革します。
――人口減少に悩む日本にとって、エージェント型AIはどのような意味を持つのでしょうか?
今こそ日本にとって極めて重要な転換点です。エージェント型AIによって人間の能力は飛躍的に拡張する可能性を秘めています。日本の優秀な人材がAIエージェントと連携し、生産性を何倍にも高め、卓越したビジネス成果を生み出す姿を想像してみてください。
AIにより人材を置き換えるのではなく、人材を強化する、という発想が重要です。適切なAIシステムは、キャパシティを解放し、部門間の分断を打破し、意思決定を迅速化し、全体的なアジリティを向上させることができます。これにより、日本企業は飛躍的な進歩を遂げ、急速に変化するグローバル市場においてリーダーシップを確立することが可能になります。
コソーシング:日本の企業文化になじむアプローチ
――日本では伝統的に、あらゆる業務を社内で行う 「自前主義」 が好まれてきました。BPOの導入がグローバルの他国に対して比較的少ないのは、このことが一因でしょうか?
確かに、日本における BPO 導入率は 15 ~ 16% 程度であり、北米の 24 ~ 25%、世界平均の約 20% と比べて比較的低いままです。
しかしながら、日本企業は歴史的にパートナーエコシステムの構築、特に世界クラスのサプライチェーンイノベーションにおいて優れた実績を誇ってきました。AIの登場により、BPO分野にも同様のチャンスが生まれていくものと考えています。
自社で業務を行う際のコントロールと信頼性を維持しながら業務の近代化を一歩進めるためのアプローチとして、「コソーシング」というコンセプトをご提案したいのです。
――コソーシングは従来のアウトソーシングとどう違うのでしょうか?
従来のアウトソーシングは、特定のタスクを外部に委託することに重点を置いています。受託した側のサービスプロバイダ―がその特定の範囲の中でイノベーションを適用するモデルです。一方、コソーシングは、クライアントのビジネスを包括的に共に変革を進めることに重点を置いています。当社のコソーシングモデルでは、担当業務の範囲だけでなく、クライアントの社内業務も含めた、ビジネスプロセス全体にわたるイノベーションの実現を目指しご支援するものです。これにより、双方が同じだけデジタル技術の進歩から恩恵を受けられる、協働的なフレームワークです。
また、トランザクションベースでの価格設定やリスク評価の構造など、私たちはお取引に対して柔軟に対応しており、当社の成功はクライアントの成功に結びついています。
―― 日本でよく持ち上がるデータセキュリティの懸念についてはどう対策をされていますか?
これは当然の懸念事項であり、日本に限ったことではありません。私たちは、クライアントの安全な環境内でオペレーションを行います。そのため、データはクライアントのシステムの外に出ることはありません。これにより、イノベーションを損なうことなくセキュリティを確保できます。
AIがBPOの未来を変える
―― AI時代においてBPOはどのように進化していくとお考えですか?
根本的な変化が起こっています。従来のBPOは「Human led, human powered (人間主導、人間パワード)」でしたが、新しい時代のBPOは「Human led, AI powered(人間主導、AIパワード)」です。
従来、ビジネスシステムには取引に基づいてデータを保存する 「システム・オブ・レコード」、顧客やユーザーとの結びつきを管理する 「システム・オブ・エンゲージメント」、データを分析してレポートを作成する 「システム・オブ・インテリジェンス」という3つのカテゴリーに分類されていました。しかし今、AIは新たなレイヤーである「システム・オブ・アクション」を生み出そうとしています。
エージェント型AIは、この進化において重要な役割を果たします。明確なルールに従う 「決定論的ワークフロー」と、リアルタイムに状況に適応する 「動的ワークフロー」の両方をナビゲートすることで、ビジネス成果を生み出します。
2009年の創業以来、当社のBPO事業は業界特化型のプロフェッショナルサービスを提供しており、デジタルネイティブ企業へのサービス提供においてもリーダーとしての地位を確立しています。コグニザントはAIに10億ドルの投資を行い、「AIパワードBPO」のリーダーを目指していきます。
将来を見据えて:日本市場への長期的なコミットメント
――コグニザントが日本のBPO市場において成功できている理由は何だと思いますか?
コグニザントの企業文化は、業界に特化した深い知識、イノベーション、顧客中心主義に根差しており、その価値観が日本企業に強く共感されているのだと思います。
――コグニザントは15年以上にわたり日本企業を支援してきましたが、今後日本市場に対してどのようなアプローチで臨むお考えですか?
意識の変化が徐々に進みつつあります。日本企業は伝統的に長期的な視点を重視してきましたが(それも当然重要です)、現代はスピード、俊敏性、そして競争力の強化がますます求められています。多くのリーダーはそのことに気づいており、日本で重視されてきた文化的なニュアンスとスピードの適切なバランスを備えた新しいモデルを模索しているように見えます。
――最後に、日本企業へのメッセージをお願いします。
AI の登場は、まず試し、共創し、新たなプロセスに適応していくことを意欲的に推し進める企業にとって、真のチャンスをもたらします。
単独で進めるのではなく、適切なパートナーと協力することです。たとえば共同調達のようなモデルに適切な AI 機能が組み合わされれば、実用的で明るい未来への道が開けます。
私たちは15年以上にわたり日本のお客様をご支援しており、今後も長きにわたりその姿勢を貫いていきます。エージェント型AIが成熟し、日々の業務に浸透していく中で、日本企業がグローバルリーダーシップの新たな章を切り開くお手伝いをコグニザントがさせていただければ幸いです。